Cosmos and Chaos
Eyecatch

歌詞の書き方(実践編)

 さて、詞先制作の方法シリーズ最終回です。
 今回は拙作『電話番号』を例に、実際どういう流れで曲を作っているか解説します。

Cosmos and Chaos流、実際の作り方(概略)

  1. 言葉が降ってくるのを待つ、またはテーマを決める
  2. とりあえず一行作る
  3. この一行はサビかな? それ以外かな?
    • ストーリーを思い浮かべる
    • 構成を考える
  4. ストーリーを完成させる(字数は最初から出来るだけ揃える)
  5. 読み返して流れや言葉が変じゃなければ完成

 大体の流れはこんな感じ。以下では各工程について詳しく説明します。

0. この曲の構成

Aメロ Bメロ サビ1 サビ2 Aメロ Bメロ サビ1 サビ1 サビ2 Cメロ Bメロ サビ1 サビ1 サビ2

 構成だけ見ると結構長いですがサビがいずれも短めなので曲の長さはそんなに。

1. 2. 3. 降ってきた言葉を元に曲の構成とテーマを決定

 この曲は言葉が降ってきたタイプ。サビ2の期待なんてしたくないんだがまず思い浮かびました。

 私の場合はまず、思い浮かんだフレーズを元に一行、ないし二行(ワンフレーズとか一文くらい)、歌詞を作ります
 そして、それが曲の中でサビに当たる部分になるか、それ以外かを想像して決めます。
 期待なんてしたくないんだはこのままでワンフレーズなので、後ろのフレーズのこうやってボタンを押す間にもは後から作りました。
 但しこの段階ではメロディーは全く考えてません。

 この曲の場合、上記で作ったフレーズは「サビのラストかな」と思ったのでそこに配置。それから構成を決めました。
 最初に浮かんだフレーズを強調したかったけど、これだけじゃ短かったので、サビを二種類にする事に。
 残りは多分大体決めて、作りながら調整しました。

 次に、歌詞を1曲分の長さにする為に、テーマを考えます。
 思い浮かんだフレーズは病んでる人が絶望しているイメージでしたが、それだけだと1曲書けないなーと思ったので、以下の二つのネタを心の引き出しから引っ張り出しました。

住宅街での麻薬の密売
丁度少し前にニュースで特集されていたので。密売人から買った人曰く、コンビニで知らない男に声をかけられ電話番号を渡されたそうです。
多分暗い顔してクスリに走りそうな人間を探してるんだろうなーと想像して採用。
(マス)メディアの在り方
当時大学で有害メディアについて学ぶ機会がありました。私が書く歌詞も一部はかなり「有害」だと思うし、興味深かったです。
また、東日本大震災の後のテレビが色々酷かったので、こっそり愚痴ろうと画策。

4. テーマを元に言葉を連ねる

 題材が十分出たので言葉にしていきます。

仮メロディーについて

 この曲では、多くの部分で仮メロディーを作りました。
 2番のAメロの前半と、Bメロは仮メロディーをそのまま採用しています。
 サビ1の旋律はどの段階で作ったのか覚えていませんが、サビ2とCメロは旋律は後付けです。

 作曲する段階での話ですが、実際打ち込んでみるとAメロの仮メロディーが単調だったので、コード進行だけ残して違う旋律を考えました。
 この曲は内容重視でAメロの音数や音の区切りをあまり揃えていなかったので、一番に合わせて作った新しい旋律だと二番が歌えない! という事で二番のAメロは仮メロディーのままの部分があるのです。
 これはこれで曲に変化が出たので良いのですが、一般に詞先だと音数や韻の踏み所を揃える作業は大事
 特に他の方に後から曲を付けてもらう場合は気にするようにしてください。

歌詞を作る

 では歌詞を作っていった工程を覚えている限りで説明します。
 この曲は(動画では一応最後に書いていますが)特段伝えたいメッセージも無く、作り始めた当初はストーリー性も無かったので、先に決めた三つのテーマのイメージを入れられれば自分としてはOKとしました。
 但しテーマが複数ある場合は、ストーリーものでなくても全体の流れは予め考えておいた方が良いです。

1番を作る

 まずは、やっぱりコンビニで電話番号を渡される、というのが強烈な印象だったので、採用。
 曲のストーリー的にはこれがそもそもの元凶くさいですね。そこから話を考えていきます。
 けど、密売人は確実に買ってくれる人にしか渡さない筈(通報されたら厄介だし)。
 なので主人公は最初から暗い顔してないとダメ。当時私は鬱が原因で彼氏と別れた後だったのでそういう設定を採用。
 この様に登場人物の心境を思い浮かべるとストーリーを書きやすいです。これで一番Aメロ完成。

 このまま順番に作っていっても良いのですが、私の場合は使えそうなフレーズが思い浮かんだら書き留めておき、既に出来ている部分と関係付けられるか考えながら書き進める事が多いです。
 この曲だと、サビ1には殆どストーリー性がありません。これは使いたいフレーズを詰め込んだだけだから。

 Bメロは密売人の謳い文句のつもりです。
 でも、当初音源は一つだけで作るつもりだったので(実際の音源はルコ♀♂なので一人だけど二人みたいな感じ)、密売人に言われた言葉を馬鹿みたいに繰り返して肯定しようとしているイメージでした。

 さて、そろそろ最初に浮かんだ「期待なんてしたくないんだ」との関係を考えないと自然に繋がりません。
 此処では「貰った番号に電話してみるけど、麻薬なんかに期待したくない」という事にしました。
 クスリで一時的に心は晴れるかもしれないけど、それで恋が叶うわけじゃなし。
 これは割と短くまとまったので、サビ1はまだ書いてなかった主人公の抱える絶望感にしました。

2番以降

 1番が出来上がると自然と字数が決まってきます。
 それに気を付けながら2番以降を作っていきます。

 2番のAメロも病んでいる自分の現状を。
 Bメロはニュース見てて思う事と、「有害メディア」を作っているので自分自身の心情を入れてみました。
 有害メディア論については気が向けば別途書きます。

 2番のサビは、病んでいるイメージばかりだと単調なので設定変更&追加。
 彼氏と別れたばかりという設定は破棄します。代わりに、まだ付き合っていない友達にうっかり好きだという想いを伝えてしまい、今の関係を失いたくないために何も無かった事にしてと言って逃げた事にしました。
 この設定でも1番とは矛盾が無いので、1番の歌詞は変更せずに続行。

 それにちょっと麻薬を匂わす内容を加えて、サビ2は気に入ってたし短いので繰り返しても大丈夫かなと思って1番と同じ。

 Cメロは麻薬の密売風景を。
 上述の通り、当初は全部同じ音源の筈だったので、主人公の心情じゃない所はカギ括弧。
 その次のBメロで主人公は麻薬を肯定するようになる。最後のサビで落ちる所まで落ちた感じ。
 此処のカギ括弧はよくある言い回しで、主人公の言葉というより辞書から引っ張ってきた感じなので敢えて浮かせようとして付けました。

 あとは反復[リフレイン]を適宜行います。

5. 完成

 そして出来上がった歌詞がこちら

 あたかも順番に作ってきたかの様な説明をしましたが、実際には音数を揃えながらなので必ずしも前から順番に作っている訳ではないです。
 例えば、1番のサビ1を作った時点でサビの音数は決まってしまうので、2番や最後のサビ1で使えそうなフレーズや単語を考える事ができます。
 「何もかも」→「誰もかも」や「朽ち果て」→「渇いて」などなど。
 こういう言い換えの言葉からストーリーを補完する事も多いです。

 こんな感じでもう現段階で出せるスキルは出し切りました。まだ抽象的で解りづらい点もあると思いますがご容赦ください。
 最後に言いたい事を三つだけ。良い歌詞を作りたいなら、

  • 周囲の物事への視界を広げ、自分の感性に素直になる事
  • 日本語(や外国語)の勉強をちゃんとする事
  • 詞先制作でも音楽や楽器、声楽、発声学の知識がある方が良い

 こんな感じでこのシリーズは終わりますが、このブログの同じカテゴリー内ではプロの作詞家さんによる、作詞の手引書についても紹介しています。
 基本的に商業音楽の歌詞制作(人間が歌う前提、曲先前提多し)の手法になるので、私が書いてきたテクニックとは違う点も多いかと思いますが、アイデア出しや字数揃え等の普遍的な技法には役立つ知識が書かれていますので、いくつか参考にすると良いでしょう。

 とはいえ、基本は練習・実践あるのみです。
 ぜひ自分の手を動かしてみてください。

Sophia

DTMとかやる人。