第15章:しがみつく

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 私、なんで生きてるの?

 その少女は、ふと、足を止めた。主要な駅と駅とを繋ぐ乗り換え通路の真ん中で、人混みの中立ち止まった彼女に、後ろを歩いていたサラリーマンが悪態をつく。
 彼女は小さく謝ってから脇へ寄る。駅ビルのショーウィンドウには、童顔の少女の顔が映っていた。
(私…)
 ガラスを汚してしまう事にも構わず、反射する顔に触れる。
(私……死ななかったっけ?)

 それが彼女が感じた最初の異変だった。
 彼女は突如思い出したのだった。自分は根治が難しい持病を抱えており、中学の頃からずっと入院していた事を。少し病状が良くなり、大検を受けて大学へ合格したは良いが、二、三度通っただけで再び体調を崩し、そのまま…。
 そのまま、この世に別れを告げた事を。
 彼女は大学へ行こうとしていた所を引き返し、自宅に戻った。両親はもう仕事に行ったのか、部屋は暗く無音である。
(どういう事!?)
 その記憶が単なる妄想だとは、思わなかった。思えなかった。
 何もかもを思い出した。いつも見つめていた病室の天井、重く思うように動かせない身体、そして、死に逝く自分の名前を呼びながらしがみつく兄。
「お兄ちゃん…」
 自分が生きている事も奇妙だったが、兄の姿が見当たらない事の方が気になった。兄の部屋の筈だったスペースは物置部屋になっていた。パソコンの中をくまなく探したが、写真一つ出てこない。
「どういう事…?」
 生きていない筈の自分が生きていて、存在する筈の兄が居ない。
 少女はカレンダーを見た。此処で漸く、自分が死んだ筈の日から二年も経っている事に気付く。その間自分は、何の違和感も無く暮らしてきたのだ。
 いや待て、今の自分は入院した事も子供の頃に一度あるきりだ、という記憶も同時に存在する。体は強い方ではないが、今の自分に持病は無い。
(これ何…? 前世の記憶とか?)
 そう思って鏡を見るが、その顔は死んだ筈の自分と同じだ。あの時死んだのは自分自身だし、記憶の中の兄の顔だって今の自分に似ていて、間違いなく兄妹だ。
 だとしたら、兄はどこに消えたのだろう?
 少女が得体の知れない恐怖に身を震わせていると、パソコンが音を立てて一通のメールの到着を知らせた。習慣付いた作業として、無意識にそれを開く。
「何これ…しんしんしゃ? 業務の依頼…?」
 それは、彼女に審神者の力があると感知した政府からの召集令状だった。


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