第5章:その男は風のように/こう見えて甘党

  • G
  • 2931字


「いや無理だろこれ!!」
 ラカムが吹き荒ぶ風の轟音の中叫んだ。掴んだ草の根が抜けそうになり、慌てて地面を強く蹴って足をめり込ませる。
 仲間の様子を振り返ると、体重の軽い団員、特に女性陣はほぼ全員山の麓まで吹き飛ばされてしまった様だ。女性で残っているのは以下の三人のみ。
 一人目、木にしがみついているカタリナ。
 二人目、ドランクが覆い被さって飛ばされないようにしているスツルム。
 三人目、エムブラスクを地面に突き刺して難を逃れたベアトリクス。
「ルリア! ラカム、ルリアが飛ばされた!」
「ジータ達も一緒だし大丈夫だろ! カタリナ、動けるか?」
「留まっているのがやっとで、前には進めなさそうだ!」
「じゃあ行ってやれ!」
 それを聞いてカタリナは木から手を離す。あっと言う間に見えなくなった。
「ベアトリクスを除けば、僕の体重でギリギリって感じかな……」
 ドランクが呟く。男性陣も残ったのは、ラカム、オイゲン、ユーステスと、体格の良い面子だけだ。カタリナも実はドランクとそう身長差は無い。
「怪力で悪かったな~~~」
 言いながらもベアトリクスはエムブラスクを使って器用に山を登って行く。ユーステスとオイゲンも自力で動けるらしく、それに続いた。
「おいドランク。あたしを離せ」
「え、でも」
「このままじゃあたしもお前も動けないだろ。あたしの剣を使って良いから、お前だけでも登れ」
 ドランクは少しの逡巡もせずに、片手を地面から離してスツルムの剣の一本を抜く。それと同時にスツルムは彼の下から這い出て、そのまま転がる様に落ちて行った。
「やれやれ。僕達も行こうか」
 剣を地面に刺したドランクがラカムを見ると、彼はその場で考え事をしていた。
「ラカム?」
「ああ、悪い。こっちだ」
 導かれるままに、斜面の上ではなく、風の流れに沿って横に移動する。徐々に風が弱まり、普通に立っていられる程度になった。
「流石、一流の操舵士は違うね」
「これくらい誰だって読めらあ。オイゲンはわざと止めなかったな」
「何か策でも?」
「……お前、残った面子でこの星晶獣に勝てそうなのは、誰だと思う?」
 頂上、星晶獣が居ると思われる場所に向かって歩を進めながら問う。
「僕だね」
 銃はこの強風の中では狙いが定まらない。フラメクは仲間が近くに居る状態では使えない。エムブラスクは接近する事が前提だが、そこまで近寄らせてくれるかどうか。
「属性的には炎が使える僕だし、水や氷も体積を稼げば風の影響を受けにくいしね」
「ああ。悪いがベア達には囮になってもらう」
「意外だね」
「単純そうで悪かったな」
「そういう意味じゃないよ。こういう、誰かを騙して犠牲にするような策は取らないんじゃないかと思ってた」
 ラカムがドランクを振り向く。しっかりと進む先を捉える両の目が、ドランクを射抜いた。
「俺だって、いっぱしの騎空士になるまでに、綺麗事ばかりじゃ済んじゃいねえさ」
 ぞくり、とした。ラカムが再び前を向いてから、ドランクは口の端を上げる。
 なぁんだ。君も年相応には波に揉まれてきたんだね。
 思えば、ドランクはラカムの過去をほとんど知らなかった。自分だって傭兵になるより前の事は語っていないが、少なくとも黒騎士と組み始めた頃以降の事は結構喋った気がする。しかしラカムはジータと合流するより前の事をほとんど口にしない。知っているのは、幼少期にガロンゾで学んだって事くらいか?
 ラカムという名前だって珍しいし、本名ではないのかもしれない。そもそもそれがファーストネームなのかファミリーネームなのかも判らない。それに、妙に情報収集能力に長けている……。
 ただあまりに騎空艇に対して真っ直ぐな気持ちを見せていたから、彼自身の全てが真っ直ぐに、過去から未来へ伸びているような気になっていただけだ。
 それ、団長さんは知ってるの? 喉から出かかったが、愚問と気付いてやめた。
 ジータなら、知っていようがいまいが彼に対する態度を変えたりしないだろう。


このサイトではクッキーを使用しています。
詳細