第12章:その花が枯れるまで

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 それは突然の出来事だった。
「ドランクさんですね」
 あたし達は仕事を求めて旅の途中、立ち寄った店で食事中に話しかけられた。自分で言うのも何だが、あたし達はファータ・グランデ空域ではそれなりに名の通る傭兵だ。声をかけられる事自体は、それほど珍しい事ではない。
「至急読んでいただきたい」
 問題は、突然話しかけてきた男が渡してきた手紙を見て、ドランクの顔色が変わった事だった。
「……読まなくて良いのか」
 男が去った後、ドランクは食事の続きをしながら手紙の封蝋を睨み続ける。
「読んだ方が良いとは思う」
 手早く食事を済ませ、ドランクはその手紙を手に取った。まだ封蝋に刻まれた印章を眺めている。
「もしかして……またあの島[・・・]からか?」
 あたしは以前、そこで厄介な依頼を押し付けられた事を思い出す。
「うん」
 意を決したのか、ドランクはやっとその封蝋を破り取った。
「僕の実家からだ。まあ、居場所は掴まれてると思ってたけど。僕に直接遣いを寄越すって事は、相当急ぎだね」
 ドランクは手紙に目を通す。と言っても、便箋の半分も書かれていなかったらしい。直ぐに折り畳んでまた封筒に入れた。
 あたしは内容を聞かない。ドランクが言葉を纏めるまで、自分の皿の上の肉を切って待つ。
「スツルム殿」
「なんだ」
「次の仕事、断って良いかな。ていうか、今後暫くの間、僕は傭兵のお仕事できないと思う」
「仕方ないな……いつ頃復帰できそうだ?」
「……分からない」
 ドランクはテーブルから見える窓の外の空を見つめる。落ち着かなさげに指を回していた。
「お父様が死んだらしい。だから僕、色々後始末とか、今後の事とか話しに、戻らなきゃ」
「そうか」
 ドランクがそう言うのは、少し意外だった。彼が実家とはほぼ絶縁状態なのは、なんとなく察していたからだ。でも、あたしも詳しい事情は知らないし、当事者のドランクがそうすると言うのだから、口を挟むべきではない。
「じゃあ、その間あたしはアガスティアに――」
「スツルム殿も一緒に来てくれない?」
「へ?」
 料理を見ていた顔を上げると、不安を押し隠せていない表情があった。
「お母様を混乱させるのは良くないから、とりあえず家の者には仕事のパートナーって言おうと思うけど……君の事、お婆ちゃんには紹介したいし」
「……わかった」
 そうしてあたし達は小型騎空艇を使い、こっそりと島の裏側からその地に降り立った。