第3章:ただ一つの選択肢

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「おっ。今朝来たってのはお前か。へし切長谷部」
「長谷部と呼べ」
 薬研藤四郎は旧知に微笑みかけた。煤色の髪の付喪神は冷たく返す。その様子を見て、鶴丸国永は事情を尋ねた。
「なに、長谷部は信長さんから貰った名前が気に入らねえのさ」
「それでわざと呼んでるって訳か。ま、とにかく任務をちゃんと熟してくれれば良いがな」
「当然だ。主命とあらば、組む相手が誰であろうが、汚れ仕事だろうが熟してみせるさ」
 鶴丸は長谷部の顔を見た。主命とあらば、か。
 自分は政府の依頼で、転送装置の開発に付き合ってきた。実験が成功した時、言われたのだ。「もう本霊の所に戻って良い」と……。
 自分は実験の為だけに顕現させられた刀。本当にお役御免になるのだ、と悟った時、鶴丸は懇願していた。穂村の服を掴み、初めて彼を「主」と呼んだ。
 これまで転々としてきた時とは訳が違う。今更彼と過ごした日々を失いたくなかった。穂村に決定権は無かったが、幸い政府が特例を認めてくれた。こうしてこの本丸の「初期刀」となった訳だが、毎度不思議に思う事がある。
 彼等はどうして、顕現した当初から主従関係を理解し、受け入れているのだろう?
「で、鶴丸の旦那。今日は何処に出陣するんだ?」
「……あ、ああ。江戸だ」
「また江戸か。遡行軍も諦めが悪いな」
 三振は転送装置へ向かう。行先を設定し、転送を開始した。肉体や精神が分解・再構築される気持ちの悪い感覚の後、見慣れた戦場、江戸の風景が眼前に広がる。
 ……見慣れた、時間遡行軍達の変わり果てた姿と共に。
「!?」
「おい、これ……」
 鶴丸と薬研は異変に気付き、刀に手を掛けた。
「どうかしたのか? もう先に何処かの本丸が……」
 首を傾げている長谷部に、鶴丸が説明する。
「政府は出陣先を一括管理して各本丸に割り振ってる。同じ場所、同じ時刻に二つと部隊が来るのは、一斉討伐の時だけだ」
「じゃないと余計な混乱が起きるからな」
 薬研が付け加える。腰を落とし、刃を抜いて両手で構えた。何かが来る。
「無理すんな長谷部。自分の身だけ自分で守ってくれ」
「言われなくても」
 長谷部も柄に手を掛けた。直後、謎の言葉が空に響く。
 ――罪は許されるべきだ――。
「何?」
 呟いた鶴丸の足元に、頭上から何かが転がってくる。遡行軍の首。
 ――歴史の異物よ、双方ともに滅びてしまえ――。
 耳を[つんざ]く異音。それ[・・]が目に入った時、鶴丸にはもう、一つの道しか残されていなかった。


『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。