エクシア

  • PG12
  • 5918字


「フ~ゥ! ひっさしぶりだねえ、アウギュステのバカンス!」
 隣の相棒は誰がどう見ても浮かれていた。いや、普段から外ではやや浮かれ気味で調子に乗った話し方である事は承知している。
 しかし余程楽しみだったのだろう。乗り合い騎空艇が港に入る前から、ドランクは独り言なのかあたしに話かけているのか判別しがたい言葉を紡ぎ続けていた。
「まずはやっぱり海だよね。フェスの時期とはずれちゃったけど、催し物は他にもたくさん――」
「わかったわかった。ほら、降りるぞ」
 艇を降りて港を歩いていると、見慣れた形の騎空艇が隅に停泊しているのが見えた。グランサイファーだ。
「グラン君達も来てるんだ。合流する?」
「へえ、特異点がねえ」
 ドランクの問いに答えたのはあたしではなかった。ドランクと共に、瞬時に武器を取り出して身構える。
 振り返ると、素肌に黒いジャケットを重ねた男が欄干に腰掛けていた。
 禍々しい気配。どうして気付かなかったのだろう、というくらいの悪意が滲み出ていた。
「此処で味見して行くのも良いけど、予定は狂わせたくないなあ。そういや、キミ達もそこそこ腕が立つって噂だよねえ?」
「なんだ、お前? いきなり現れて――」
「伏せて! スツルム殿!」
 あたしの言葉と視界を遮ったのはドランクだった。その直前、黒い男が何か黒い結晶の様な物を二つ、けしかけてきたのが見えた。
 半ば押し倒されるように地面に伏せる。黒い結晶が見えなくなり、圧し掛かっていたドランクが身を起こす。
「チッ、あいつも消えたか。おいドランク、レジャーは中止だ。グランと合流して――」
「……それ、僕に向かって言ってる?」
「は?」
 こんな時にふざけるな、と言おうとして、言葉を失う。
 ドランクが自分を見つめる視線が、いつもと違った。寄った眉根。
「ドランク?」
 こんな表情、いつ振りに見ただろう。若い頃は、気に入らない事があるとよくこうやって態度に出していたが。
「僕、そんな名前じゃないんだけど……」
 言いつつも右手を差し出し、あたしの手を引いて起こしてくれる。が、直後にその手は離れ、自分の服に着いた土を払った。
「それじゃ」
 踵を返したその背に、やっと状況が飲み込めた。ドランクはあの黒い結晶を食らったんだ。そしてその結果、記憶を失っているらしい。
「ま、待て!」
 操られているようには見えないが、その辺をうろつかせて逸れてしまうのはまずい。慌ててその手を握り直す。
「なぁに? お姉さん意外と積極的だね」
 いつもならこんな事を言われたら三回は刺す所だが、後回しだ。
 そうだ、グランが居る。あいつに相談しよう。さっきの男もあいつの事を狙っていたようだし。
「う、海に行かないか」
 グランが何処に居るのかはわからないが、海に行けばよろずやが店を開いているだろう。あいつに訊けば間違いない。
「これって逆ナン? まあ、僕もなんでアウギュステに居るのか思い出せないし、良いよ」
 ひとまずほっとする気持ちと、本当に女なら誰でも良いのかと思う呆れがない交ぜになる。まあ良い、とにかくグランと合流するのが先だ。


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