エクシア

  • PG12
  • 5918字

「ファスティバに意識を向けさせ、その隙に海上へと飛翔する。ドランクはファスティバがぶつかってくる衝撃を利用したいだろうが人質に傷が付けば利用価値が減る為、影響が少なくなるようにルリアの足をこちらに向けるだろう、か……。見事な策だった」
「当然よ。まあでも、スツルムのヒントがあったからさ」
 パーシヴァルがメーテラを褒めている。ラカムが煙草を取り出して問うた。
「でもよ、ドランクがルリアを抱え上げて、その向きまで当てたのは流石にまぐれだろ?」
「その時は頭上を飛び越えて反対側に行くだけよ」
「最初にあいつの利き手を聞かれた。普通なら利き手側に頭がくるように抱き抱えるし、ドランクの武器は力で殴るタイプじゃないから、片腕で抱えるとしても右手を使って問題無い。とすると、ルリアを庇って左側を浜の方に向けると踏んだ」
「二人の知識と知恵が上手く実を結んだな。いつか機会があれば我が国の力にもなってほしい所だ」
「あの~スツルム殿の相棒は僕なんですけど~」
 言ってみたが聞かれちゃいない。溜息を吐いて、グラン君に声をかける。
「それより、バカンスだったの? 僕達はそのつもりだったんだけど」
「いえ、違うんです」
「そうよ! 此処での騒ぎは収まったし、オイゲンとも合流できたんだから、今度はロゼッタに会いに行かなくちゃ!」
 イオちゃんが杖を上げて主張する。騎空団員達はそうだった、と雑談をやめた。
「二人も来ます?」
「いや、やめとくよ」
「話によると全空で異変が起きているそうじゃないか。あたし達はあたし達で、気にかけておく」
「そうしてもらえるとありがたいです」
 グラン君達が去った後、僕達は一先ず今夜の宿を探す。
「ごめんね。忘れちゃってたとはいえ、僕、スツルム殿にも冷たくしちゃったよね」
「仕方ない。それに、あたしを庇った所為だ」
 交代でシャワーを浴びて、潮風にべたついた髪を清める。
「それにしても、あのメーテラさんって人凄かったなあ」
 飛翔術を使えるくらいだから、頭も相当良いんだろうなあ。弓の腕も良かったし。
「飛翔術のコツくらい教えてもらいたかったけど、遠回しに断られちゃった」
 敵に回したくはないタイプだから、グラン君の友達で良かったと心底思う。
「今度二人で会ってやれ。貸してくれと言われたからな」
「ええ!? じゃあメーテラさん、あれマジで言ってたのか」
 色んな意味で凄い人だ。三十路過ぎたおっさんからかって……いや、揶揄われる僕がまだまだなのかも……。
「何を言われたんだ?」
「ちょっとスツルム殿には話せない事」
 男が言ったらセクハラになるのに女だと許される色仕掛け、解せない。
 ……まあ、実際許されない事だけどさ。相手をとっかえひっかえして、女の子を泣かせるのは。
「それで、会いに行くのか?」
 スツルム殿は平静を装って剣を磨いている。昨日今日と使っていないんだから、そんなに念を入れる必要は無いのに。
「行かないよ。僕には僕の魔法があるから」
 それを聞いたスツルム殿の表情が、ほんの少しだけ緩む。長年毎日顔を見てきた僕じゃないと気付かないくらい、少しだけ。
「あの女、苦手だ。昔のお前みたい」
「ちょっと、早く忘れてよ~調子乗ってやんちゃしてたのは若気の至り~」
「見聞の狭さと未熟さ故の非行愚行を耳障り良く言うとそうなる」
「手厳しい……」
 言って自分の掌を見る。記憶を失って彷徨いかけた僕を、必死で引き留めてくれた小さな手が触れたそこ。
 何を見ようが、何を言われようが、そこにあった温もりだけが真実だ。そう思って一人で声も無く笑っていると、気持ち悪いと相棒に三回程刺された。


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