第7章:ジータちゃんの小冒険

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  • 4744字

「もう遅かったんで、早く送り届けようと思ったのですが、息子が駄々を捏ねまして……」
「ああ、いえ、こちらこそ。妹がお手間をおかけしました。上着まで貸していただいて……」
 アイザックが送ってくれたドラフに深々と頭を下げ、上着を返したグウィンに自分が羽織っていたジャケットを被せた。僕は団長さんにマントを貸す。
「随分長くお邪魔したんだねえ」
「ごめんなさい。結局夕食までご馳走になっちゃった」
「ま、無事だったんだから、皆も許してくれるよ」
 ドラフの男性に港までの行き方を教えてもらい、僕達は二人を連れてグランサイファーへの帰路に就いた。
 前を歩くアイザックがグウィンに小言を言い、カシウスが宥めているのか煽っているのかよくわからない合いの手を入れている。僕達は団長さんに、此処までの道程で何をしていたのか尋ねた。
「ふっ、ふははっ」
「も~笑わないでよ~」
「笑っちゃうよ~。時間を忘れるくらいツチノコ探しに夢中になって、道に迷っちゃうなんてさ~」
 僕があまりに笑ったからか、団長さんは肩をぷりぷりさせて前方の集団へと移動してしまう。
「まったく子供らしい所もあるんだから」
「そうだな」
 その時、笑う僕を見上げていたスツルム殿の視線が、僕の顔から少し逸れて止まった。僕もその先を追う。
 民家の窓枠に、何かが脱皮した皮だけが残っていた。
「まさかねえ」
 言いながらも手に取って伸ばしてみる。
 それは奇妙な形をした、おそらく蛇のものだった。
 僕はスツルム殿と顔を見合わせる。ややあって頷き合い、僕はそれを折り畳んで懐に入れた。
 迷惑料として貰っても良いでしょ、これくらい。

「あっはははははは!」
「五月蝿いぞ仔犬[パピー]。近所迷惑だ」
 僕達がグランサイファーに戻ると、ゼタとバザラガ、そしてイルザさんは戻って来て情報交換をしていた。
「ほんっとうにごめんなさい……」
「無事だったから良いさ。風邪を引く前にさっさと風呂に入って寝るんだな」
 団長さん達にはそう優しく声をかけたものの、イルザさんの口調には苛立ちが混じっている。
「すみません、途中で見張りを離れちゃったんですが、あの後何か?」
「何という程でもないさ。痴漢を三人ほど豚箱送りにしてやったがな」
 言いながら宝珠を返してくれる。まあ、僕を呼ぶ程ではなかったのなら、良いか。
「言っておくが、君達には全く何も怒っていないからな」
「じゃあ誰に怒ってるんですか?」
 ゼタの問いに、イルザは意味深な視線を投げる。
「まだ帰ってきてない奴等にだよ……と、噂をすればお出ましだ」
 ユーステスとベアトリクスが戻って来る。今度はにやにやとしているイルザさんに、ユーステスが低く唸った。
「さっきすれ違ったのに無視しただろう」
「ほう? 声をかけてもらいたかったのか?」
 ユーステスが歯を食いしばる。ベアトリクスはいつになく大人しく俯いている。僕達が首を傾げていると、イルザさんはやれやれと言う風に背を向けた。
「ふっ切れたんなら、一先ずは安心した。癇癪玉をよろしくな。とはいえ犬の真似事までする程犬好きだったとは」
「お前そういうところだぞ」
 艇に入っていくイルザさんをユーステスが追う。ベアトリクスも慌ててその後を追った。
「何あれ。どういう事?」
「ゼタ、友人とは言え軽率に直球の質問をするのは無粋だからやめておけ」
「ああ! そういう事!」
 ゼタはポン、と手を叩く。まあ、僕が見ててもユーステス君がベアトリクスの事を好きなのは明白だったんだし、組織の人達が知らない筈ないよねえ。
「いや、人探しに集中しなさいよね」
「全くだ」
 そう言ってゼタとバザラガも中へ。アイザック達は団長さん達と一緒に既に中に入っていたので、最後に僕とスツルム殿が入り、出入口を閉めた。
「……すんませんっした!」
 僕は夕食を食べていないので、何か食べられるものは無いかと食堂に行くと、ローアインが厨房で待機していた。
「ローアイン君は悪くないでしょ」
「でも俺が頼んだ所為でドラちんがアイザックに怒鳴られてたし? 一応筋は通しとこうと思って?」
 ローアインは食事の量を尋ねる。僕は軽めにと注文した。
「僕は十分だよ」
 カウンターに背を向けて野菜を切っていたローアインが、僕がぽつりと漏らした言葉に振り向く。
 本当に、十分幸せだ。皆僕と笑いながらご飯を食べてくれるし、そうできない日もこうやって待っててくれる。
「団長さんは命の恩人だしね。彼女の為なら怒鳴られたり夜道を探し回るくらい、どうってことないよ」
「……なら良いけど」
 ローアインは出来上がったサラダを僕の前に置く。
「その表情[カオ]、ルム殿が心配するっつーの」
「……大丈夫だよ。疲れが今どっと来ただけだから」
 自供してしまった。その意味と実感が、今更ながら恐怖を伴って押し寄せてくる。
 どう考えても悪手だった。身の安全も完全には保障されなければ、スツルム殿に僕の悪行が詳らかになってしまう可能性も出てくる。例え彼女が知りたくないとしてもだ。
 スツルム殿だって、僕がしてきた事くらい少しは勘付いているだろう。でも、その全部を知っている筈も無い。
 それを全て知った時、彼女は僕の事をどう思うだろう。今更怖がったりはしないと思うけど、それを許してくれたとして、今度は僕が彼女に失望する番だ。
 スツルム殿は良い事と悪い事の基準がはっきりしているし、彼女のその基準から外れれば見捨てられると思っていたから黙っていたのに。
 ……空腹時の考え事はネガティブになりがちで良くない。僕はフォークを取ると、飢えた腹を満たす為に緑色の葉に突き立てた。


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