第8章:ドランクの仕事

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 ある日、一通の手紙が僕達に届いた。高級そうな紙質の封筒に、見覚えのある蝋印。僕はとても嫌な予感がした。
「仕事の依頼か?」
「そうみたいだけど……」
 はっきりしない返答に、スツルム殿は首を傾げる。僕は封を開けて中身を読んだ。詳しい依頼内容は書かれておらず、ただ「依頼人の屋敷に来るように」と、乗り合い騎空艇で使える小切手形式のチケットが二人分同封されていた。
「チケット同封……。そんなにあたし達に頼みたい事が?」
 物珍しそうにスツルム殿がチケットを摘まむ。僕達はまだ無名で、特に遠く離れた島から指名を貰えるような傭兵ではなかった。
 ……となると、僕は足取りを掴まれたのかもしれない。
「この仕事は断ろう、スツルム殿」
「なんで?」
 スツルム殿は無表情だったが、チケットを見る目だけはキラキラさせていた。行先に指定されているのは、傭兵ギルドの本部からは高速騎空艇でも十日近くもかかる場所。ファータ・グランデ空域の外れにあるにしては都会的な島。観光するには不便な場所だが、街並みの綺麗さから、そこに住む事を憧れにする者も多い。
「だって普通の騎空艇だと、行くのに十日以上かかるんだよ? その間、この辺で仕事してた方が良くない?」
「でもチケットはある。しかもこれ、一等室も使えるらしいぞ」
 僕は無意識に前髪を撫でつけていて、それに気付くと手を下ろした。スツルム殿の気持ちは解らなくもない。タダで行けるのなら、誰でも行ってみたくなるような距離だ。
 結局スツルム殿の期待に根負けしてしまって、僕はその島に向かう事を承諾した。どうせ掴まれた足だ、遅かれ早かれ行く事にはなると思って。

「わぁ……」
 窓から見える島の様子に、スツルム殿が思わず感嘆の声を漏らす。洗練された街並みは、まだ港に入っていない騎空艇からでもはっきりと判った。
「こんな街に住むのはどんな気分なんだろうな」
 普段は冷静で寡黙なスツルム殿が、年相応の少女の顔付きで尋ねる。
「こういう場所は初めて?」
「あたしの実家の周辺は田舎だからな。まともな病院も無い」
「…………」
 僕もスツルム殿が覗く窓の外を見る。夕焼けが島全体を照らして、明るい色の石で作られた大きな屋敷達を暖かい色で染めていた。街並みだけは綺麗だ、ほんと。
「……住めば都ってね。僕はスツルム殿と一緒なら、どんな場所で暮らそうと楽しいと思うな」
 とは言え、この島だけはごめんだ。
 窓から額を離す。直後に膝を剣で刺された。
[]ってぇ! 今なんで刺されたの!?」
 スツルム殿は頬を赤くしている。いつもの照れ隠しか、とほっとした。僕が距離を詰めても、スツルム殿は適度な距離を空けてくれる。それが今は凄く安心できた。

 上陸すると早めの夕食を摂り、僕達は宿へ向かった。
 部屋に着くなり、僕は持ち歩く必要の無い荷物を置いてマントを脱ぎ、髪の毛を結う。姿見で着崩れ等が無いかチェックすると、右耳に一つだけ付けたピアスを外し忘れている事に気付いた。取り外したそれを荷物に投げ込み、部屋の扉に手をかける。
「ドランク?」
 何処へ、と尋ねるスツルム殿に、誤魔化しの笑顔を向ける。
「答えろ」
 が、通用する相手ではない。
「依頼人の所」
「もう夜だぞ?」
「アポの時間は指定されてないからね」
「じゃああたしも……」
「二人で行く必要は無いよ。スツルム殿は先に休んでて」
 有無は言わせない。冷たい態度で突き放すと、スツルム殿は無表情の中に少しだけ悲しそうな色を浮かべたが、正直、それに構っていられる場合かどうか判らなかった。
 一先ずは、依頼人に口止めをしないといけない。


『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。