第8章:ドランクを助けたいジータちゃん

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  • 11730字


 愛する人の死に対面した時、人は誰しも思うものだ。これを無かった事にしたい、と。
 多くの魔術師や錬金術師が、死人を生き返らせる術を研究し、その甲斐無く散ってきた。肉体から完全に分離してしまった魂を再び定着させる事は、未だ不可能な業である。
 しかし、まだ魂が抜けていない心肺停止状態の肉体を蘇生する事は、可能か不可能かで言えば辛うじて可能だ。

「必要なものは、肉体のダメージを修復する為の生命力、肉体から離れつつある魂を繋ぎ留める為の精神力……」
 私は魔法書の最後の方の章を読んでいた。蘇生魔法に関する事柄が書かれている。
 蘇生魔法で必要な代価は、術者の魔法の技量に反比例し、被術者の状態の酷さに比例する。魂が既に肉体から分離したかどうかは一般に判別できず、仮に分離が終わっていた場合、術者はどれだけその肉体や精神を削っても術を成功させる事はできない。通常、実行するには危険すぎる魔法である。
「そうだよねえ~」
 ドランクにこの本をおすすめされてから数ヶ月。私は戦闘時に魔法で皆をサポートできる程度にはなっていた。それでも、この蘇生魔法が使えるようになるのはまだまだ先だろう。第一、誰かが瀕死にならないと試す事もできやしない。
「でも、ドランクのあの言い方だと、ドランクは使えるのかな、この魔法。どう思う?」
「さあな」
 机の前の椅子からベッドに向かって声を掛けると、興味の無さそうな声が返ってくる。ラカムは銃の手入れをしていた。
「明日会うんだから、本人に訊けば良いだろ。だいたい俺はその時居なかったしよ」
「そう言えばそうだった」
 なんだかいつもより手入れが念入りだ。何を警戒してるんだろう。
 私は怪訝に思いつつも、本を閉じて立ち上がる。
「最近部屋に長居しても怒らなくなったよね」
 ベッドに移動して隣に座ると、曖昧な返事が返ってきた。
「……お前、ドランクに懐いてるみたいだが」
 別に懐いてるわけじゃないけど、黙って続きを促す。
「あいつには気を付けろよ」
「大丈夫だよ~。ドランクにはスツルムが居るし、モテるみたいだからわざわざ子供の私なんて狙わないってー」
「そういう事じゃねえ」
 え、何? ラカムまさか嫉妬してるの? ちょっと待って心の準備ができてない!
「『青い髪のエルーン』だ」
「へ?」
 予想していなかった知らない単語が出てきて、首を傾げる。
「あいつの事をちょっと調べてみた。昔から、裏ではそう呼ばれてるんだとよ」
「裏?」
 ラカムは唸りながら頭をくしゃくしゃと掻いて、一つ一つ言葉を選ぶ。
「世界には無法地帯もあるって事だ。ドランクは若い頃からそっちに片足突っ込んでんだよ。どんな事情があったのかは知らねえが……目的の為なら何でもするって噂だ。突然牙を向くかもしれねえ」
「心配しすぎだよ~。第一私が狙われる理由が無いでしょ?」
「それは……」
 ラカムは口籠る。私は本を抱えて立ち上がった。
「もちろん、男の人と無闇に二人きりになるなとは、カタリナ達にも言われてるからそうするよ」
「俺は良いのかよ」
「だってこの艇の人は皆良い人だから」
 ラカムは呆れたような顔をした。何よ、私にだって団員を見る目くらいはあるのに。
「そうかい。ま、そろそろ部屋に帰って寝ろ」
「言われなくてもそうしますー。おやすみっ」
「おやすみ」
 廊下に出て扉を閉めようとした時、小さな呟きが聞こえてしまった。
「本当に食っちまうぞ」
 顔が熱くなる。聞こえなかった振りをして扉を閉めたら、力加減が狂って大きな音が鳴った。


『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。