第3章:ドランクを訝しむジータちゃん

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  • 3583字

本編

「しっかし、まさか量産品だったとはなあ……」
 ラカムがそう呟いた。
 僕達は例の短剣の生産地の島へと降り立った。そこで目にしたのは、全く同じ形の短剣を腰に提げた人達。地元の人の話によれば、島の外れにある規模の大きな工場で作られていて、ベーシックな形で手頃な値段だから、人気があるのだそうだ。勿論、島の外に輸出もされている。
 僕達は小売店で数本入手すると、グランサイファーへと戻って来た。今は食堂で、スツルム殿がその内の一本を解体するのを、皆で見守っている。
「あれだけ大勢の人が使ってるって事は、この製品自体に問題がある訳では無さそうだね」
 僕の言葉に、団長さんが顔を曇らせる。
「無駄足って事?」
「いや」
 僕はスツルム殿から一瞬目を外し、テーブルの隅に置かれた、問題の剣を見遣る。
「スツルム殿が通常の品を解体し終わったら、僕が真似てこっちを分解するよ。もしかしたら、何か違いがあるのかもしれない」
 目で見て判るような違いがあれば、まだ良いんだけど。
「終わりだ」
 スツルム殿が声を上げる。テーブルの上に広げられた布の中に、短剣の部品が整列している。
「よし! じゃあ今度は僕の番……」
 僕はいつもの調子で威勢良く自分を鼓舞しようとしたのだけれど、一抹の不安からその手は止まり、言葉も尻すぼみになる。
 この剣は好きな相手への不満を、殺したくなるほど増幅させる。
 これまでは大丈夫だった。でも今日は? 自分でも気付いていない何かがきっかけで、僕は操られてしまうかもしれない。
「スツルム殿」
 僕は彼女に向き直る。
「部屋で休んでいてくれないかな」
「なんで……」
 問おうとして、彼女も気付く。自分がどうして僕に斬り付けたのか、スツルム殿だって操られた時の記憶はあるのだろう。
「……解った」
「武器の解体なら俺も出来る。解らない事があれば訊け」
「ありがとねーん」
 ユーステスが気を利かせてくれた。スツルム殿が食堂の扉を閉めた音を聴いてから、短剣を取る。大丈夫、何も感じない。
「まあ、僕も多少の知識はあるけどね。スツルム殿の手順も見慣れてるし」
 巻き付けてあった布を外す。刀身の具合を確認し、部品と部品の隙間に工具を差し込む。曇り一つ無いピカピカの刃に、近くで様子を眺めていたアオイドスの真紅の髪が映り込んだ。
『俺は色恋沙汰に興味が無い』
 急にその言葉が思い出されて、一瞬手が止まる。変に力が入って、外れた部品が飛んで行った。テーブルから飛び出したそれを受け止めようとした団長さんの手首を、ラカムが掴む。
「ちょっと」
「悪い」
 痛そうにした団長さんに、ラカムが謝る。
「いやでも、部品とはいえ操られたら困るだろ。お前はまだ触ってないから、影響あるのか無いのか判らねえし」
「た、確かに」
「俺が拾おう」
 アオイドスがテーブルの下に消え、再び現れて部品をクロスの上に置いた。ありがとう、と僕は言って、それにアオイドスが微笑み返した……筈なんだけど、その一連の流れはまるで大根役者の映画を観ているかのように臨場感が無かった。
 ……僕は本当は、スツルム殿の事なんて愛していないのかもしれない。


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