第3章:ドランクを訝しむジータちゃん

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  • 3583字

 その日感じた事を思い出そうともしないまま十年が過ぎていた。十年経って漸く取り戻したくなって、沢山人に迷惑をかけながら取り戻して、僕は最高に幸せだと思っていた。
『僕、君の事、心から愛してるんだ』
 僕はその理由を口にしなかった。手帳に書き起こした痕跡も無い。今でも、一度でも彼女に伝えた事があるだろうか。
 スツルム殿は僕の憧れで、目標で、生き甲斐だ。それは確かだ。でもその理由は?

「おい、気を付けないと曲がるぞ」
「あ、ああ、ごめん」
 ユーステスの言葉に我に返る。考え事をしながらも、ほとんど分解は終わっていた。
「これで最後、かなっ」
 軽い音を立てて、刀身が柄から完全に分離する。直後、僕は短剣の部品とは思えない物が中から覗いている事に気が付いた。
「皆、僕が暴れたら骨折っても良いから押さえてね」
 念の為宣言してから、その白くて薄い物に触る。引き出すと、小さい短冊形の紙だった。
「お札……ですか……?」
 食堂の隅でカタリナさんに守られるように、僕達を見守っていたルリアちゃんが首を傾げる。
「みたいだねえ。これが本体かな?」
「切り分けてみるか」
 ユーステスが立ち上がる。
「ベアトリクス、離れていろ」
「はあ? なんで?」
「まあまあ、何かあると危ないから、ね?」
 僕が宥めると、渋々とベアトリクスは壁際まで下がる。ユーステスはこの剣に操られつつも、唯一自分の意思で手を離せた人物だ。試すのには一番適役だろう。
 僕は札を持ったまま、皆が集まっている方とは反対側へ下がる。テーブルの上にはスツルム殿が分解した物と、僕が分解した物の、全く同じ部品達だけが残った。
 ユーステスがその一つ一つ、僕が分解した方を触っていく。まずは小さい部品から、漏れの無いように順番に。ややあって、一番最後、その刀身へと手が伸びる。何も起きない。
「表面が曇ったな」
 ラカムが呟いた。僕もテーブル脇に戻る。これまで血にも汚れなかった刃に、ユーステスの指紋が残っていた。
「じゃあ、これが本体だね。ラカム」
 彼は僕の目を見て頷き、武器をテーブルに置いてから僕の隣へやってきた。
「え、何するの?」
 きょとんとした団長さんに説明する。
「これが本体なら、ラカムが触った瞬間にまた操られると思って」
「自分で言うのも何だが、ドランクは俺の事を一人で押さえられるからな」
「操られてると馬鹿力が出るかもしれないけど、できるだけ怪我させない様にするから」
 それでも不安そうにした団長さんから、ラカムは目を逸らす。彼が一呼吸置くのを待って、僕は札を差し出した。
 触れた瞬間、彼の目の色が変わる。振り向いた先に居るのは、金髪の少女だ。
「はい確定!」
 ラカムが掴みかからない内に、背中から羽交い絞めにする。アオイドスが飛んできて、ラカムの手から札を奪った。
「はー……サンキュ」
 ラカムは忌々し気に札を見ながら僕に言う。団長さんも肩を落とした。
「調査は振り出しか~」
 どうやら、短剣の生産地という手掛かりしか無かったらしい。
「私達はもう暫くこの島に留まって調べてみる。お札も、この島で作られたものかもしれないから」
「僕達も付き合うよ。暫くかかるだろうと思ってたから、この後の仕事、暫く入れてないし」
「じゃあ私達も! ……大丈夫だよな?」
 言ってから、ベアトリクスはユーステスの顔色を窺う。
「ふん。上には何とか言っておく」
「やった!」
 嬉しそうなベアトリクスの表情が僕に向けられた。それは多分無意識だったのだろう。
 それでも、何でもない風を装って笑い返す事が、今日の僕には出来なかった。
「ラカム」
 分解した剣を片付け終わり、散り散りに各自の部屋へと帰っていく団員達の中から、彼を捉まえる。
「煙草一本、貰えないかな」
「禁煙はどうした」
 言いつつも、その手はポケットに伸びる。
「ほら」
「……ありがとう」


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