第2章:フェリちゃんの手紙

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  • 5409字


親愛なるフェリお姉ちゃんへ

騎空艇は無事に――島へ到着しました。
旦那様も奥様も、ご子息様達もとても優しくしてくださいます。
お医者様は早速、明日には屋敷へ来てくださるそうです。

短いですが、少し艇酔いしてしまったので、取り急ぎご報告まで。
お父様とお母様にもよろしくお伝えあそばせ。
近い内にまたお手紙書きます。

ネモフィラ

愛するフィラ

無事に辿り着いて良かった。此方は相変わらずだ。
お医者様の言う事は良く聞いて、元気になったら帰っておいで。

ところで、父上から伺った話だと、そちらは結構栄えているそうじゃないか。
へんぴな島からはつまらない物しか送れないが、お前の好きだった花を押し花にしたので、同封する。

フェリシア

 私は、一枚の紙きれを見つめていた。フェリシア、から始まる長ったらしい名前が書かれている。
「これが、私の本当の名前か」
「苗字は、僕のお爺様のだけどね」
 妹が嫁いだ先の島の役所で作ってもらった、戸籍の写しだ。
「トラモント、が本当の苗字だよ。代々、島の領主の家系だったんだって」
「そうか……」
 フェリシア・トラモント。トラモント島の領主の娘、か。
「随分あっさり作れたな」
「登録漏れや隠し子問題は少なくないんだろうねえ」
「あとは、お前の実家がこれに気付いて何か言ってこないかだが」
「大丈夫でしょ。流石に役所もべらべら個人情報は漏らさないだろうし」
 スツルムとドランクが話している二歩後ろを歩きながら、丁寧にそれを折り畳んで鞄に仕舞う。
 死んだ人間が、生きている人間としての証明を得てしまった。とんでもなく悪い事をした気分だ。
「さて、見つからない内にさっさと島を出よう」
「……ああ」
 足を速めたドランクの背を追う。私はこの名前から思い出せそうになっている古い記憶を、そのまま呼び起こしてしまって良いものか、悩んでいた。
 帰っておいで。私はどうしてそう急かしていたのだろう。


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