第2章:ラカムの恋路を応援する会

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  • 3517字

 ラカムはグランサイファーの甲板から、次の目的地である島を眺めていた。停泊中の島よりも高い高度にあるそれは、裏側のゴツゴツとした岩場を僕達に向けている。
「やあ」
 声をかけると、煙草を咥えたまま振り返る。僕の顔を見て、それを指に移した。
「おう。世話になるな」
「僕達まで呼ぶなんて、よっぽど手強いのかなあ」
「それはわからねえ。まあ、お前の顔を立ててやろうってのがジータの本音だろうな」
 ラカムが差し出した煙草の箱を断る。
「ごめん、禁煙してるんだ」
「そうか」
 ラカムは気にした様子も無く、ポケットにそれを戻す。
「あの短剣は?」
「とりあえず、アオイドスの部屋の金庫に封じ込めてある」
「ふむ」
「ドランク」
 難しい顔をした僕を気遣ってか、ラカムが呼びかける。
「お前に非はねえよ」
「解ってるよ。ただ……」
「ただ?」
「……僕にもプライドはあってねえ。悔しいじゃない」
 僕もその島を見上げた。
「あそこで何か掴めると良いけど……」

 さて、僕達がどうしてその島に行く事になったのか、時を戻して説明しよう。
 僕達は殺害予告を受けたアオイドスの護衛として団長さんに雇われた。僕はその時舞台にいて、歌うアオイドスに向かって来た刃を弾き落とす為にバリアを張った。
 筈だった。
「ぐっ!」
 僕のバリアは確実に間に合っていた。だが刃の先端はそれを破ってきた。
 幸い、咄嗟に飛び出してきていたバレンティンがアオイドスを突き飛ばし、アオイドスは無事だった。バレンティンも団長さんの魔法で治癒したけど、彼があと一瞬遅れていたらどうなっていた事か。
「ドランク?」
 舞台上をあらかた片付け終わり、険しい顔でその短剣を拾った僕に、スツルム殿が声をかける。
「何だろう、この剣」
「?」
「スツルム殿、ちょっと僕のバリア、試してもらって良い?」
 僕は一旦それを床に戻し、スツルム殿との間にバリアを張って斬りつけてもらう。無論、貫通などしない。
「タイミングが間に合わなかっただけじゃねえのか?」
「いや、間に合っていた。バリアをすり抜けるのを見た」
 ラカムの言葉をバレンティンが否定する。アオイドスが短剣を拾い上げた。
「それ……なんだか嫌な感じがします……」
 言ったのはルリアちゃんだ。僕も、自分の防御魔法を突き破る武器は気味が悪い。
「ん?」
 アオイドスは何かに気付いた様に眉間を寄せる。
「どうした? アオイドス」
「バレンティンの血が着いていない……」
 確かに。決して浅くはない傷だったし、床には飛び散った血痕が残されているのに、この短剣は新品の様にピカピカだ。
「ま、まさか呪いの剣だったり……?」
「そんな事あるか」
 寄越せ、と手を差し出したスツルム殿に、アオイドスがそれを手渡す。
「何にせよ、調べた方が良さそうだね。僕達も主犯は取り逃がしちゃったしってえ!」
 僕は間一髪でスツルム殿の一撃を避けた。短剣が目の前で光り、肝が冷える。
「スツルム殿!?」
「何やってんだよ!」
 僕がスツルム殿の手首を掴み、その隙にラカムが短剣を取り上げる。それでスツルム殿は我に返った様だ。
「え? あ……?」
「大丈夫? 短剣の影響かな……」
 言ってハッとする。ラカムを振り返ると、彼はゆっくりと団長さんの背中に忍び寄っていた。
「ジャスティン!」
「指図しないでください」
 側に居たジャスティンに呼びかけると、言いつつもラカムの手から素早く短剣を奪い取る。もう言わなくても良いだろう。今度はラカムが我に返り、ジャスティンがアオイドスに向かって来た。
「何度も刺される訳にはいかないな」
 アオイドスが剣を取り上げる。何故だか僕とアオイドスは平気らしい。もしかしたら他にも影響が出ない人が居るのかもしれないけど、試してみるのも危険だ。
「この剣については私達で調べてなんとかするね」
「良ければ、調査結果だけでも教えてほしいなあ。バリアが効かないの、命取りだから対策したいし」
 団長さんは快諾してくれた。そして、その剣の生産地が判ったから、良かったら一緒に調査しないか、と誘われたのだった。


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