第36章:不透明な未来

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 という事で、僕とルチル、ローズとシトリンは用意された馬車の一つに乗り込んだ。
「盗賊達の処罰は、全てが終わってからね。暫くは幽閉しておくわ」
 見送りのパライバはそう言いつつ、隣にジェダイドを引き連れていた。手錠はされたままだが、彼をもう一つ準備させていた馬車に詰め込む。
「ま、思う存分痴話喧嘩して頂戴」
 同じく中で手錠をされて座っていたアメジスト王女に言うと、扉を閉める。
「また連絡するから」
 馬車が動き出す。オニキスはブルーレース姫の相手をしていて、見送りには来なかった。僕は妹に手を振ってから、馬車の中の三人を見る。
「お疲れの様だね。でも、森を迂回するから長旅になるよ。観光旅行と思って明るく行こう」
「うん…」
 向かいに座るルチルが頷いたが、とても元気そうには見えない。
「でも…ボク達どうなるんだろう…」
 ルチル達が…僕自身もだけど、不安に思うのも無理は無い。アメジスト王女の生存がバレてしまったし、他にも色々とついていた嘘をレーザー王は国民から責められるだろう。政府が信用を失い、内乱やクーデターが起こらないとは断言出来ない。第一、神器とターコイズについてどう説明すれば良いのだろう。僕達だって信じられないのに。
 仮に国民が許してくれたとして、今度はルチルとローズの問題だ。ローズから、エメラルド様に真実を教えてもらったと聞いた。ルチルももう、自分が嫡子でローズ達は従姉、僕の事は異母兄だと認識している。
 ルチルが正室の子供だと判ればローズが王宮を追い出されかねない。そればかりかアメジスト王女やジェダイドに重い処罰が課せられる可能性もある。確かに二人とも罪は犯したけれど、ローズ達の両親である事には変わりないし、出来れば酷い刑罰には処されてほしくない。
 ルチル自身は真の姫君としてこれまでよりも丁重な扱いを受けるかもしれない。けど、そんな事を彼女が望んでいないのは明らかだった。
「ボクはただ…これまでの生活に戻りたい…」
「ルチル…」
 ローズがルチルの手を握った。
「ごめんなさいね。私が我儘を言ったからこんな事に…」
「ローズの所為じゃないよ。悪いのは、ううん、誰でもない」
 ターコイズ、と言おうとしたのだろうが、ルチルは途中で言い換えた。
「それに、オニキスやサージェ達に会えたし、シトリン姫も戻ってきたしね」
「…私、帰って来て嬉しい?」
 シトリン姫が不安そうに尋ねた。
「邪魔じゃない?」
 シトリン姫は神器の適合者ではなく、砂漠の薔薇でぞんざいな扱いを受けた事がトラウマらしい。
 無事に戻ってきたとはいえ、最早彼女は王の息女ではない。それどころか、幽閉されていたアメジスト王女を連れ去った事について責任を問われるかもしれない。事の経緯は伝書鳩に託してあるので、砂漠の薔薇が雇っていたベリルへの通信を邪魔している者達が仕事をやめていれば、僕達がクォーツに着く頃にはある程度対処がまとまっているだろう。
 ルチルは自身の不安をよそに、シトリン姫を励まそうとする。
「まさか。こうして無事だったんだ、きっと皆喜んでくれるよ。ねえローズ?」
「えっ? ええ、仲良くなれますわ、きっと」
 ローズは考え事をしていたらしく、少しまごつく。
「それに、私はもうすぐ嫁ぐ身ですから。あなたが居ればお父様…国王様も寂しくなくて良いと思いますわ」
 その言葉にローズとルチルが同じ様に顔を歪ませた。
 それは、互いが離れ離れになる事を悲しむ純粋な表情ではなかった。僕は、彼女達のまだあどけなさの残る顔に浮かぶ女の一面を見て、心の中で微笑んだ。
 君は幸せ者だな、オニキス。

「良いから乗れって!」
「嫌よ放して!」
 クォーツ勢が出発し、次にカルセドニーへと戻る一行が出発する…筈なのだが、ブルーレースが駄々を捏ねてなかなか馬車に乗り込もうとしないので手を焼いていた。
「こりゃあ先が思いやられるねえ」
 パライバの計らいでカルセドニーに身柄を引き渡されることとなった、サージェの同級生だと言う女が、鉄格子の嵌った馬車の窓から独りごちる。
「…くそっ! もう良い! おい皆、手錠かけてその女と同じ馬車に突っ込め!」
 折角姫らしい扱いをしてやろうと思ったのに、結局罪人と同じ扱いで連れて帰る事にした。ったく、ルチルみたいに従順な妹なら良かっ…。
 此処で俺はハッとする。何でルチルの事なんか思い浮かべちゃってんだなんていうロマンティックな事ではなく、重要な、俺の沽券に関わる事を。
 ルチルに胸の事謝るの忘れてた。
「もう! ちょっと、アイも何か抵抗したらどうなのよ!」
 ブルーレースのキンキン声で我に返る。まあ良い、ルチルの性格なら下手に言いふらして俺を困らせたりはしないだろう。また会えるかどうかは判らないが、次に会った時に謝ろうと心に刻む。
「えーだって逆らったところで罪が重くなるだけじゃーん」
「そうじゃなくて! どうしてターコイズが居なくなったなんて言うあいつらの言い分を受け入れられるの!? 絶対あいつが殺したのよ!」
 さっきからあいつあいつと言っているのは俺の事か。馬車の中から水色の目が睨む。
「絶対許さないから」

「やっと五月蝿いのが全部去ったわね」
 パライバが出窓に頬杖をついて、去り行くカルセドニーの馬車を目で追っていた。角を曲がって見えなくなったところで振り返る。
「さて、私達の問題をかたしましょうか」
 パライバの部屋には、私と、私の母だけが居た。人払いがされ、召使いが邪魔をしない様に言いつけてある。
「モルガナイト姫の為に説明するとね、」
「モルガンで良いわ」
「じゃあモルガン。私が此処に養女に来たもう一つの理由を教えてあげるわ」
「もう一つの理由?」
「あらエメラルド様もご存知ではなかったのね」
 まあでも不思議ではないか、と言ってパライバは一人がけのソファに腰を下ろす。私の向かいのソファに座る母が頷いた。
「私もお義父様…前領主様の遺品を片付けている時に知ったの。私の実父とのやり取りの手紙が出てきたから」
 パライバは癖で組んでいた脚を正すと、母に向かってかしこまって言った。
「私は前領主様に買われた身です。前領主様と私の実父との契約が有効である限り、私やエメラルド様達の意向で私がこの土地から去る事は出来ません」

『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。