第2章:何も変わらない

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  • 4919字


 自由になった僕は何でも出来た。
 まさか出来すぎて苦しむ事になるなんて、思いもよらなかった。
「兄ちゃん、一体誰に習ったんだ?」
「ぜひ我が軍に迎え入れたい!」
「良かったら、今晩……」
 長い孤独な生活の後、何の心の準備も無いまま飛び込んだ「社会」という場所。どうやら自分は、戦いの腕も、親から貰った顔も、「普通」の人よりもずっと良いという事に間もなく気が付いた。
 僕に伸ばされる腕が怖かった。寄り集まって来る人々が怖かった。俗に言う、下心が透けて見えていたからだ、という事を認識するのには一年かかった。
 どれだけ高度な魔法が使えたって、所詮僕は世間知らずだ。何度も詐欺に遭い、搾取され、僕は学んだ。
 相手の真似をしろ。騙される前に騙すのだ。そして、こんな言葉も覚えた。
『能ある鷹は爪を隠す』
 僕は戦闘でも、圧勝する事は避けるようになった。わざと怪我をする事もあった。そうしないと、勘の良い人間はすぐに僕の力のからくりを知りたがった。そうでなくても妬み嫉みの目で見られた。
 からくりなんてものはない。左右の目の色が違うのも、結果であって原因では無い。
 ……どうしてだろう。あの家に居た頃と、寂しさが変わらないのは。今も昔も、自分を偽らないと人前に出られないのは。
 僕は考えるのをやめる。手を止めていた身支度を再開した。今日からはクーデターの手伝いに行かないといけない。
 前髪を上げ、上を向く。右目に魔法薬を垂らすと、それは左と同じ、本来の色を取り戻した。


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