第13章:別離

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  • 4097字

「主!」
 先頭の和泉守が主の部屋の前に小さな人影を見付けた。髪を伸ばし、襦袢の上に上着を羽織っただけの少女、主だ。秋田も眠そうに目を擦りながら隣に立っている。
「起きてたのか?」
「今起きたの」
「主も今の気付いたの?」
 和泉守や清光が主を心配したが、主はいつになく強い眼差しで中庭の方を見ていた。
「心配無いから、戻りなさい」
「でも…」
「戻って。秋田君もちょっと席を外して?」
 命令するなんて主らしくない。しかし、嫌な気は一瞬で消え去ったし、それ以上粘る口実が無かった。四人は秋田を連れ、出来るだけのろのろと自分達の部屋を目指す。そう広くない本丸では、主の意図を掴む前に辿り着いてしまったが。
「嫌な予感がするね…」
 布団を被り、安定は衝立の向こうへ話しかける。返事は無かった。

「あるじさまもきがつきましたか」
 数分後、続いてやって来た陸奥守と薬研を同様に追い返した所で、物陰からひょこっと今剣が顔を出した。主は厳しい視線だけを移動させて彼を睨む。
「こわいかお、しないでください」
「誰?」
「ほねばみです」
 主は今剣と共に部屋の中へ。蔀戸を閉め、明かりを灯す。
 差し出された美しい刀剣を見下ろし、主は少し表情が揺らいだ。骨喰は主に懐いていたし、動揺するなというのは無理な話だ。
「これ今どういう状況?」
「かぎりなくよわってます。いっちゅうやのうちにもどらなければ、このよにとどまってはいられないでしょう」
「死んじゃうの?」
「いきるもしぬもありません」
 今剣が幼子にものを教える口調で話す。
「すうじゅうねんは、つくもがみとしてのちからはもどらないとおもいます。ほんたいがあるばしょにもどって、ねむることになるでしょう」
 大火に焼かれた後の様に。
「本体って博物館にあるやつ?」
「げんせでどのようにほかんされているかは、しりません」
 空が白んでいくのが、蔀戸の隙間から差し込む光で感じられる。
「…骨喰は鯰尾に任せましょう」
 主はその刀身を取ると、布で包んで安置する。
「今日の近侍は彼だし、私から渡すわ」
「さいごにてもとにおくのは、かれですか」
 今剣が面白そうに笑った。主は険しい顔をする。
「やまぶしは、いえ、あるじさまも、このまえのけんで、かくしんしたんでしょう? ほねばみのけっちゃくがつくまえに、おわってしまうかもしれませんね」
 今剣は怯む様子など微塵も見せない。寧ろ、挑発している。
「なまずおをぬかよろこびさせないように、とうかいしてしまいますか?」
「そうしたら貴方みたいになっちゃうんでしょ」
 主は蔀戸の方へ歩く。
「他に誰か気付いてる?」
「さよはきづいてましたよ。あとは…」
 主は蔀戸を跳ね上げる。廊下には、誰も居ない。
「ぬすみぎきしていた、うちがたながふたりくらいかな?」


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