第13章:別離

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  • 4097字

 清光は部屋に入る直前で踵を返した。安定の後ろについて部屋に入った振りをして障子を閉め、主の部屋へ。
 主は何か隠し事をしている。それがどういう類のものかは判らないが、嫌な予感がするのだ。
 主の部屋へ戻ると、何やら長い刀を握った今剣と主が、中に入っていった所だった。
(あの長さ…青江…骨喰か?)
 未明の暗さでは形もはっきりしなかった。清光は気配を消しながら部屋の前まで移動し、耳を蔀戸に押し当てる。今剣と主の会話が、思ったよりもはっきりと聞き取れた。そして、先程の刀は骨喰だという事が判る。
(なんで骨喰があんな姿に? まさか…)
 歴史修正主義者化。ああ、そうか、今剣はそう言えばその対処の為に送り込まれて来た要員だった。まさかこの本丸で起こるとは思っていなかったが。
 それだけの事なら後は主と今剣に任せておけば良い。部屋に戻ろうとした矢先、今剣の言葉が聴こえた。
「さいごにてもとにおくのは、かれですか」
(最後?)
「ほねばみのけっちゃくがつくまえに、おわってしまうかもしれませんね」
 今剣の言っている意味が解らない。だが、彼は廊下で盗み聴いている清光にわざと聴かせているようだった。今剣の事だ、いくら清光が気配を消したって彼の霊力が届く範囲なら存在を感じ取っているだろうし、この口調だと何かを企んでいるのは主の方だ。ただ内密に話したいだけなら、この様に説明する様な言葉を選ぶ必要も無い。
(終わるって、何が?)
 その時、主が近付いてきた音がした。清光は慌てて部屋へと戻る。
 安定はまるで何事も無かったかの様に穏やかな寝息を立てている。清光は寝間着の襟を掴んで揺さぶり起こした。
「うわっ、なんだよこんな早くに」
 さっき寝入ったばっかなのに、と、まだ明けきっていない明るさに、安定は不機嫌になる。
「お前何か知ってる?」
「何を」
 髪をばさばさと掻き回しながら、身を起こした安定は問う。安定の脚に跨る様にしゃがみ込んだ清光と視線の高さが揃う。
「この本丸、今日で終わるらしいよ」
「え? どういう事?」
「お前は何か聞いてないの、主から」
 低い清光の声が耳に刺さる。安定は数日前に主との関係を非難された事を思い出す。
「…僕が何を知ってるって言うのさ」
 ただただ寂しさを紛らわせる為の道具だった自分が。
「僕は主に兄貴が居た事すら教えてもらえなかったんだよ!?」
 再び清光を突き飛ばす。乱れた夜着のまま、安定は廊下をずんずんと何処かへ消えてしまった。


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