第6章:勘が鋭いジータちゃん

  • G
  • 5003字


「スツルム殿は何も訊かないね」
 僕達は繁華街の建物の屋根の上に登り、イルザさんを遠目に確認しながら町の様子に目を光らせていた。
「お前は何も言わないだろ」
「……訊いてくれたら、答えない事もないよ。僕がこの国で何をしたのか知りたくないの?」
「別に」
「そう」
 興味無さげな言い方に、寂しさよりも安堵が勝つ。
 僕だってスツルム殿の事は何も知らない。知りたくないわけじゃない。でも、自分の事を語らないまま相手に語らせるのはフェアじゃない。
 それでも共に居る今があれば十分だ。この時間を守る為なら何だってする。
 ……本当に?
 僕は嘘吐きだ。以前も、ろくに行き先も告げずに長期間姿を眩ませた。その時は事が終わればちゃんと帰るつもりだったけど、仮に今後同じ様な事があって、帰らない大義名分を見付けてしまったら、きっと「ドランク」はそのまま消えてしまうんだ。
 スツルム殿は僕を探してくれるだろうし、待ってもくれるだろうけど、その一方で、どこか合理的なタイミングであっさり諦めるんだろうなとも思う。そうなる前の苦しむ顔は二度と見たくないし、そうなった後の吹っ切れた表情はもっと見たくない。
「……なんだ、じろじろと。見るなら通りにしろ」
「うん、ごめんごめん」
 幸福というものは恐ろしい。手に入れれば手に入れる程、失う事が怖くなる。なのにもっともっとと欲しくなる。
 老いさらばえて、大切な人に看取られながら床の上で死んでいくなんて、自分には到底無理だと思っていた。そうなりたいとも思っていなかった。そういうのはおばあちゃんの様に、真面目に生きてきた人にしか許されないのだと考えていた。
 でも今はそれを望んでいる。僕かスツルム殿のどちらかの寿命が尽きるまで、一緒に暮らしていたいと願っている。
 人殺しのくせに?
「おい、馬鹿! 足元ちゃんと見て動け」
「……ありがとう、助かったよ」
 一瞬目の前にマフィアの死に顔が浮かんで、驚いて足を滑らせた。小さな手に掴まれた感触に、思考が現実へと戻ってくる。
「あ、あれ、アイザック達だ」
 傾いた視線の先に、何やら喚いているアイザックと、それを聞いているのかいないのかよくわからないカシウスが見えた。
「昼間居たカフェの前に居る」
「行き詰まっていそうだな」
「うーん」
 僕は姿勢を正して少し考え、仕方ない、という結論を出した。
「手を貸しに行こう」
「ん? 待て、お前まさか最初から居場所に当てがあったのか?」
「そんな怖い顔しないで〜。当ては無いよ。ただ、あんまり乗り気じゃない方法を取れば、見つかるかもしれないってだけ」
 僕は屋根から飛び降りる。スツルム殿も隣に降りてきたのを確認してから、カフェの方に歩き出した。


このサイトではクッキーを使用しています。
詳細