第7章:地下一階

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  • 2073字

「そうだ!」
 此処までアイに話した所で、俺は椅子をひっくり返して立ち上がった。
「バートの部屋に行こう」
「何故です?」
 アイも立ち上がり、椅子を元にあった場所に戻した。
「今の話によるとアルバート・トランケルは宇宙開発課の所属ではありません。まずは宇宙開発課に赴いてサンプルを…」
 此処でまたアイとの口論が始まった。結局、いつものように俺が折れて、建物の地下、宇宙開発課の研究室へ。
 …行こうと思ったのだが。
「…こりゃ無理だな…」
 地下へと続く階段は、とても通れる状況ではなかった。建物の老朽化や地盤の劣化が原因ではない。
「人為的に埋められていますね」
 人間ならば悔しさに震えそうになる声で言う所だが、アイは淡々と事実を述べた。
「バートの墓の年代からして俺達への通信が途絶えたのは人類が滅びるよりも二十年くらい前だ。宇宙開発から手を引いて研究室が必要なくなったのかもしれないが…」
 …しかし、わざわざ埋めるか? この研究所は大きい。階段の所だけを封鎖するにしたってかなりの資材が必要だ。
 大体、立入禁止にしたいだけなら防火シャッターを閉めて鍵をかければ良いだけだ。実際、シャッターは閉まって鍵がかかっていた。それをアイに内蔵されているレーザーカッターで一部を焼き切り、階段へと足を踏み入れたら天井まで土の山で埋められていたという状況だ。
「…埋めるにしたってもうちょっと綺麗に埋めないか? 普通」
 俺は訝しみながら土を爪先で崩す。土嚢をただ単に積み上げただけの様だった。土嚢の袋は表面が劣化して朽ち果て、あちらこちらから土が漏れ出ている。こんな倒壊の危険がある様な積み上げ方は、いくら立入禁止区域だからといってしないだろう。
「まるで『どうしても見られたくない物があるから急いで封鎖しました』って感じだな」
「吹き飛ばしてみますか?」
「いや待て、流石に建物の中で爆破は危ない」
 調査用に搭載している爆破装置を出そうとしたアイを慌てて止める。
「他の階段を見てみよう」

「アル」
 他の階段を当たってみたが、どうやら全て同じ状態の様だった。最終的に、エレベーターの穴を通って行けば地下に潜入出来るのではないかと考え、エレベーターホールへと向かう途中、後ろを歩いていたアイが俺を呼んだ。
「何だ?」
「案内板です」
 アイが指差す先に、壁に取り付けられたモニターがあった。部屋案内等が参照出来る電子案内板だ。
「起動出来るか?」
「交流端子を私に接続してください」
「…おしっ」
 俺は壁からモニターを外し、背面パネルを取り去って電力をアイから供給させた。
「お前の充電は?」
「残り二十七時間です。この案内板は殆ど電力を消費しないでしょう」
「バッテリの性能は流石IC社。俺は地下に潜る前に一旦日光浴か、ローバーから電気分けて貰わねえと不安だわ」
 電源のついたタッチパネル型モニターの中に部屋割情報のキャッシュが残っていないか探していると、アイが俺の顔を見ている事に気が付いた。瞳の奥がチカチカしている。
「俺はヒューマノイドだ」
 また人間と誤認識しかかって混乱しているのだろう。
「そう言えば、スペースシップで言っていた話はいつするつもりですか?」
 アイが目をチカチカさせるのをやめる。
「そうだな、とりあえずサンプルを研究室に届けてからで良いだろ?」
 届けるべき相手が居るとは思えないが。
「あった」
 俺は部屋割り図面を見つけると、各階の情報を目から取り入れて保存する。アイの左手と俺の右手を合わせ、彼女にデータを転送した。
「地下の情報がありませんね」
 アイは電源ケーブルを案内板から引き抜いて収納する。
「まあ使ってなかったなら無理も無い…ん?」
 取り込んだデータを再度読み直していると、俺はあるものに気が付いた。
「IC社の部屋、やっぱり違う用途になってるな。『第二抽出室』?」
 変わった名称だとは思いつつも、一先ず俺達は充電する為に建物の入り口へ。ゆっくり太陽電池を使って充電する気分ではないのでローバーから電気を分けてもらい、再び地下を目指す。
 第二抽出室の前を通った時、俺はもう一度部屋の中を見ようかと思ったが、気味の悪さに怖気付いてやめた。
 とは言え、地下の方も十分薄気味悪い。エレベーターの扉をこじ開けてライトを照らすと、巣食っていた虫達がわらわらと蠢いた。
 俺は思わず目を逸らしたが、感情の無いアイはテキパキと作業を進めていく。
「エレベーターの筐体は最下層と思われる地下二階部分に静止しています」
 数メートル下に見えているその天井との距離をレーザーで測定し、アイが報告する。
「ロープも必要無いな。登る時用に一応付けとくけど」
 これでも俺達は探査ロボットだ。僅かな凹凸を利用してエレベーターの壁を下り、埃が積もった筐体の上へ着地する。丁度目の前が地下一階の扉だ。
 扉は一階の時と同様、少し細工をしてやるだけで簡単に開いた。ほぼ密閉状態だった空間から、百年以上こもっていた空気が逃げ出す。
「…行こう」
 それに有害な成分が含まれていないか確認してから、俺達は地下一階へと足を踏み入れた。

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