第11章:坑道のカナリア

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  • 6059字


「スツルム殿、そろそろ起きて」
 僕は自分の身支度を済ませると、まだ夢の中に居る相棒に声をかけた。
「んんー」
「アポまであと一時間~」
 脅しをかけると、漸く彼女が起き上がる。僕は宿の部屋に設置された姿見を通して、マントのフードの縁に取り付けられた飾りを眺めていた。相変わらず、良く出来ている。
「昨夜、無理してくれたんだね。ありがとう」
「無理はしてない。それに、中途半端なまま仕事に着ていくわけにはいかないだろ」
 スツルム殿が着替え始めたので、僕は朝食を取りに部屋を出る。二人分の盆を持って部屋に戻り、スツルム殿と並んでパンを齧る。
「今日の仕事は、古い坑道の調査だったか?」
「うん。昔は鉱山だったらしい。それで、今度は山向こうの町との通路として利用したいんだけど、その工事を行う前に魔物とかが棲み着いてないか見てほしいってさ」
 僕達は仕事を求めて各地を転々とし、エルステ帝国領のとある島に行き着いていた。
「なるほど」
「坑道の中は、変なガスとかが出てるかもしれないから、火を使わない特別な明かりを持って行くようにって言われてる。それを依頼主の所に取りに行ったら、すぐ山まで移動ね」
「変なガス?」
「可燃性だったり、有毒だったり……。昔はそれをいち早く検知する為に、籠に入れた小鳥を連れて洞窟に入ったそうだよ。人間よりも弱い小動物の方が先に死ぬからね。今回も何か連れて行こうか?」
「いや……」
 スツルム殿は嫌そうな顔をする。随分惨い事をする、と思ったのだろう。
「冗談。一応、現役時代もガス騒ぎは無かったみたいだしね」
 朝食を食べ終え、宿を出る。依頼主から明かり[ライト]を受け取り、僕は、一つの覚悟と共に現場へと向かった。
「……スツルム殿」
「なんだ?」
「この仕事が終わったら、大事な話があるんだ。聴いてくれる?」
「構わないが……今話せない事なのか?」
「ちょっとね」
 やっと見つけた、二人きりで行える条件の良い依頼。これは僕から「ドランク」への[はなむけ]だ。
 僕達は、そしてスツルム殿一人だけでも、もう立派に名の通る傭兵となった。これ以上僕が仕事の世話を焼く為に、スツルム殿の側に居る必要は無い。
 寧ろ居ない方が良いだろう。エルーンとドラフの恋なんて、永遠に報われないのだから。


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