墓前にて

  • PG12
  • 5443字

「……僕にのこのこ見つかれと?」
 ドランクが何の為に家出をしたと思っているのだろう。いくら顔がそっくりだからと言っても、近付けば容易に二人の区別はつく。
 しかし異母弟は苦笑して、首を横に振った。
「多分バレませんよ。お父様も奥様も、俺とは一緒に食卓を囲むどころか、家の中では口もきいてくれませんから」
 口をきいてくれないのは、嫡子であるドランクにもそうだったが、なるほど、流石に母は庶子と共に食事を摂るのは御免らしい。奥様、という呼ばせ方も、彼女の気持ちを考えれば理解はできる。
「部屋も使用人用の所で寝起きしています」
「それは、また、申し訳ない……」
 そんな仕打ちを受けているとは。流石にドランクも断れなくなった。
 ドランクは立ち上がり、スツルムと揃いで誂えたばかりのマントを脱いだ。
「わかりましたよ。このマントの色違いを来たドラフの女の子が、隣の――島で待ってるので頼ってください。一筆書きますから」
「そんな、別に一人で大丈夫ですよ」
「仕事の相棒なんです。僕が約束の時間に現れないと、彼女が心配する」
 頼みますよ。
 異母弟は渋々と受け取った。ドランクの視線が、まるで猛禽の様で怖かったのだ。自分と同じ光彩の色なのに。
「……わかりました」
 手紙を書いて渡す。去り行く背中を見送り、ドランクは墓石を振り返った。
 そのままトンズラされては困る。それに、これだ。
 ドランクは墓石の陰に隠されていた物を拾い上げる。さて、此方も楽しい休暇とはいかなさそうだ。

「ドランク! ……じゃなかった」
 スツルムは乗り合い騎空艇から下りてきた白いマント姿に駆け寄ったが、隣に並んで気付く。誰だ、こいつ?
「貴女がスツルムさんですか?」
 ドランクに瓜二つの男は、そう言うと手紙を取り出す。こちらはドランクの筆跡。
「そうだが……あなたは?」
「突然お伺いしてすみません。ドランクさんに紹介して頂いて、護衛の依頼をしたいのですが」
 ドランクからの手紙を手早く読む。確かにそう書いてある。だが、このそっくりな男とどういう関係なのかは伏せられていた。まあ、どう見ても兄弟、遠くても歳の近い叔父や甥といったところか。
「――島までか。日帰りで行けるな」
 報酬はドランクが後で受け取るとの事だった。
「わかった。同行しよう」
 依頼人の事情を深く詮索しない――余計な面倒事に首を突っ込まない為の鉄則だ。
「ありがとうございます」
 しかし、声や喋り方こそ違うものの、本当にそっくりだ。視覚情報と聴覚情報との不一致に頭が混乱する。
 第一なんでドランクのマントを着ているんだ? それだけは問いたくて仕方なかったが、ドランクの手紙もあるし、一先ずは依頼を遂行しようと決めた。


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