墓前にて

  • PG12
  • 5443字

「ちゃんと戻って来たね」
 ドランクは二人を港まで迎えに行った。
「戻って来なくても、どうせ逃がしてくれないじゃん? こんな強そうな傭兵さんと組んでるなんて、兄さんも相当だ」
「見る目あるじゃない」
 異母弟はマントを返す。ドランクはそれを羽織り、青い髪が見えない様に目深にフードを被った。スツルムは、やはり兄弟だったか、と黙って納得している。
「これは、悪いけど全部解除させてもらったよ」
 ドランクは石を取り出した。そのまま港の外、空の底へと投げ落とす。
「こんな魔法を自作できるなら、これを仕事に食べていけるよ。何処かに売り込んだら? 手を貸すよ」
 あそこから逃げたいと、言ってくれるのなら。同じ道を行かなくても良い。でもせめて、同じ方向は目指さないか?
 そうしたらきっと、仲良くなれる気がした。
「その必要はありません」
 しかし返ってきたのは冷たい言葉だった。
「僕は最期まで『貴方』として生き抜いてみますよ。それが今回の報酬。良いですよね?」
「……そう」
 元より金銭や見返りを要求するつもりは無かった。しかし、本当にそれで良いのだろうか?
「わかったらもう行ってください。一緒に居る所、見られたくないでしょう?」
「……わかった。じゃあ、また」
 近い内に、お墓の前で。
 そう言ってドランクは踵を返した。スツルムもそれに倣う。
「貴方はこれで自由。とびっきりの報酬でしょう?」
 そして、復讐です。
 歩き出して数歩も行かない内に、背後で銃声が響いた。
「きゃああああ!」
「何だ!?」
「自殺だ!」
「おい、あれ森の館の坊ちゃんじゃ……」
「……行こう、スツルム殿」
 お墓の前で、って、君のじゃなくて、おばあちゃんのを指していたのに。
 いや、違う。彼の墓は誰も立ててくれない。立つのはドランクの本名が刻まれた墓だ。
「……ああ」
 二人で乗り合い騎空艇に飛び乗る。
 もう誰も後戻りなんてできないのだ。公衆の面前で替え玉が死んだ以上、彼が替え玉だったと明かさなければ、館の一人息子の生存を主張する事は出来ない。
 両親はきっと明かさないだろう。明かせば自殺の理由だけでなく、彼が何処の誰で、どういう理由で替え玉が必要になったのかまで、あの家の秘密の全てが詮索の対象となってしまう。
「本当だね」
「何が?」
 三等の客室で、ドランクはスツルムに零す。
「繋がりを断ち切ってまで掴む『自由』なんて、全然自由じゃないね」
「……そうだな」
 心臓が痛くて痛くて、今にも破裂して死んでしまいそうだった。


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