第4章:増える心配事

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  • 1730字

 翌日、通学定期を買って喜び勇んで高校へ向かう嬢の姿があった。
(将臣殿と同じクラスだと良いなあ…)
 昨日の段階で名簿は貰っていたが、将臣が何という名前の人物に生まれ変わっているかまでは判らない。嬢は指定された教室に向かう道すがら、その名簿を凝視していた。
(ラッキーというべきかどうか判らないけど、もう一人の方とも案外早く接触出来そうなんだよね)
 真田嬢、と名前が書かれているそのすぐ下にある名前。
(「瀬良勇」か…文隆おじさんの息子かどうかはまだ判らないけど、他に瀬良姓の人は居な…)
「わっ」「きゃっ」
 よそ見をして歩いていたので、嬢は他の女生徒とぶつかってしまった。ハッとして見れば、女の子が廊下に倒れている。
「ごっごめんね! 怪我してない?」
「大丈夫」
 慌てて彼女に手を差し伸べる。転んだ少女は立ち上がるとスカートに付いた埃を払った。
「私も考え事してたから。じゃあ」
 立ち去る少女の背中を暫し見詰めていた嬢だが、彼女が廊下を曲がって見えなくなると気を取り直して教室へと足を進めるのを再開した。
 途端、爪先に何かがぶつかる感触。
「生徒手帳」
 と伝統的に呼ばれ続けている生徒用のIDカードだった。さっきの彼女のだろうか、拾って所有者名を確認する。
(「深森霧子[ふかもりきりこ]」ちゃんね…後で届けようっと。丁度名簿もあるし)

「でさ、早速調べてみたんだけど」
 勇はクラスが分かれてしまった隼と、勇の教室の前で話していた。
「あの子、TAE[タエ]の娘かも」
「ほう?」
 気がある様な無い様なフリをしながら内心興味津々で聴いていた。
 昨日、彼女を見た瞬間に走った感覚。懐かしい様な、切ない様な、どこか恐ろしい様な…。全く知らない少女だが、何故か気になる。
(なんか、知ってる様な気がするんだよな…)
 しかし隼の情報によると彼女の名前は真田嬢。勇の脳内名簿にはリストアップされていないし、どうやら住んでいる所も遠いらしい。それに、
「タエってモデルのTAE?」
「そうそう。本名、真田[たえ]ね」
いくらなんでも世界的スーパーモデルの娘ならインパクト強すぎて会った瞬間に記憶に刻まれそうだ(実際あの顔の美しさは刻まれたが)。そう言われれば顔が似ているかもしれない。
「っと、ご本人のお出ましよぉ」
 隼が視線で示した先に、プリントを手に持った嬢が居た。向こうもこちらに気付いて、微笑みながら近付いてくる。
「四組の人ですか?」
 これまた鈴の様な声で嬢が言った。
「うん」
「あ、俺は五組。何さん?」
 何も知らないフリをして隼が尋ねる。可愛い子には目が無いのだ。
「真田嬢。よろしくね」
「嬢ちゃんって呼んで良い? なんか名前呼んでる感じじゃないけど」
「どうぞ。貴方は?」
「片瀬隼。隼で良いよ。んでコイツが」
「瀬良勇」
 勇がそう言った途端、嬢の笑みが一瞬吹き飛んだ様に見えた。
「瀬良…君か。よろしく」
「? よろしく」
 そこで予鈴が鳴り、勇達はめいめいの教室に入った。出席番号順に指定された席に着くと、勇の視界の半分程を嬢の長い黒髪が覆った。
(…変な奴)
 この時の勇は何も知らずにそんな印象を抱いただけだった。

(瀬良勇、瀬良勇、…瀬良勇か…)
 ホームルーム中、嬢はずっと後ろの席の少年について考えていた。
(将臣殿[イコール]瀬良文隆の息子って可能性浮上…)
 嬢は昨日、将臣の生まれ変わりを見付けた時とは一転、相当気分が沈み始めていた。
 嬢はどのような経緯で文隆が父のグループを抜け…そして姿を消したか記憶している。文隆は発掘していた遺跡から出てきた重要な遺物を盗んで逃げたのだ。場合によっては嬢と勇は敵対する立場にならざるを得ないかもしれない。
 それに、考え方が暗くなってきたのだろうか、他の心配事も思い浮かんできた。
 元より期待していたわけじゃないが、勇には将臣だった頃の記憶は無い。思い出す可能性も、閻魔大王の話によれば薄い。勇が自分以外の人間を好きになったら、自分は彼の意に反してまで彼と一緒になる事を望むだろうか。望んだところで叶うだろうか。
 それに…嬢は将臣を殺したのだ。もし仮に思い出してくれたとして、将臣が春緒を怨んでいたらどうしよう…。
(ええい、兎にも角にもまず文隆おじさんの息子かどうか確認しなきゃ!)

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