第6章:失望と期待と

  • PG12
  • 1586字

「褒めてよ姉さん」
 嬢は妃を呼び出して今日は車で直接事務所に向かう事にした。助手席から隣の姉に言う。
「何を。こっちは仕事してるんだから何も無いのに呼び出さないでよ」
 妃はイライラした風な運転で公道を飛ばしている。
「解ってるって。瀬良文隆の息子を見付けたんだ。仕事速いでしょ」
「何て? もう見付かったの?」
 妃自身、自分の夢見に百パーセント自信があるわけではない。予知が当たってホッとするのは、これで食べていく者としては当然の事だ。
「将臣殿がそうだった」
 妹の複雑な心境を汲み取り、妃は出来るだけ優しい口調で尋ねる。
「おじさんについて何か言ってた?」
「それが…どうも禁句[タブー]らしくて」
「タブー?」
「推測だけど、おじさん、逃げる時家族の事ほったらかしてったんじゃないかな」
「まあ、そうか…」
 そうだとすれば、勇が父親に捨てられたと思い、文隆を憎んでいてもおかしくはない。つまりは勇も彼の居場所を知らないのだろう。勇が嬢達の父親探しに何か貢献してくれるかもしれない期待は外れた様だ。
「一応、判った事を伝えておくとね、瀬良君、幼稚園の時高校の近くに住んでたけど一旦何処かに引っ越して、小学校の間にまた戻ってきたみたい。引っ越してた間に事故に遭ってそれ以前の記憶は飛び飛びだとか」
「事故?」
 事務所の駐車場に車を停めながら妃が繰り返した。
「時期的には文隆おじさんが失踪した頃に重なるわね。どういった事故か分かる?」
「そこまでは…」
「じゃあ今度訊いてきて。何か引っ掛かるな…」

(…と、言われても…)
 嬢は弁当をつつきながら考えていた。昨日の一件以来、勇とは話せていない。昨日と同じ階段に来てみたが、勇の姿は無く、独り寂しく食べている所である。
 そんな時階段を登ってくる足音がした。勇かと嬢は期待したが、主は隼だった。
「嬢ちゃんじゃん。こんなとこで何してんの? クラスの子にいじめられた?」
「あ、ううん、違う違う。瀬良君探してんの」
奇遇[きっぐー]。あいつ、絶対隠れて[めし]るからな…メールしてみっか」

 勇は昼食も食べずに廊下をウロウロしていた。
(霧子のクラス、何処だ…?)
 聴いておけば良かったと、各教室を覗いてはその姿が無い事にガッカリする。今日は来てないのかと思い諦めて自教室に戻ろうとしたら、携帯端末が震えた。

『もしもし隼? リコーダーなんか今日持ってきてねーよ他を当たりな。ところで霧子が居るんだよ。お前クラス知らね?』
「キリコ?」
 うっかり忘れたリコーダーを借りようとしていた隼が勇にメールした所、電話が返ってきた。
『ほら幼稚園一緒だった』
「あーそういや居たような居なかったような…」
「瀬良君、深森さん探してるの?」
 嬢の声が向こうにも届いたらしい。
『真田さんと一緒か』
「うん。あ、嬢ちゃん名簿持ってるってよ」
 個人情報保護の為、クラス分け名簿はデジタル化された状態では配布されていなかった。そんな物とうに捨てていた勇は隼に居場所を聞くとそちらへ向かう。
「うーん、居た?」
「見付かんないねぇ」
 勇が階段を上ると、二人して一枚の紙を覗き込んでいた。
「勇ちゃん、キリコって『深い森に霧がかかる』で合ってるよね、漢字」
「何だその覚え方」
「あ、私が深森さんの生徒手帳拾った時に…綺麗な名前だなと思って」
 勇は嬢を無表情で見詰めたが、何も言わずに名簿を[つま]んだ。
「ちゃんと探せよ…」
 言った途端に予鈴が鳴る。隼が慌てて階段を飛び降りた。
「やっべぇ次音楽!」
 残された二人は同じプリントを掴んだままだったが、勇が指を離して階段を降りたので、嬢も後を追った。
「昨日悪かったな」
「何が?」
 突然謝られ、嬢はキョトンとする。
「お前の親父も行方不明なんだろ。昨日知った」
 勇は教室の前で嬢を振り返った。
「協力するよ。父親探し」
 その顔が将臣を思い出させ、嬢は言葉を失って頷くしか出来なかった。

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