妄想

  • G
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 他人が考えている事を読む事は出来ないとはよく言われるが、考えている事と言うよりも見ている物、聴こえている音、その他感覚器官によって感受されている事を他の人間が知る事は今の所不可能である。

 だから私は考えていた。私が赤色だと思っている物が、他の人には青色に見えていたらどうしよう。美しいと思うお隣に住むお姉さんの顔が、実は他の誰かには醜く見えていて、しかしその人にとっての醜さを表す単語が「美しい」で世界が無矛盾に動いているとしたら? 本当は、大好きなあの人には、私の顔が宇宙人の様に見えていたら?
「ん…」
 私は瞬きをした瞬間、世界の景色に違和感を覚えてその場にしゃがみ込んだ。空が黄色に染まり、学校のグラウンドがピンク色に変わっている。前に立つ人の肌の色は変な緑色をしていた。
 慌てて駆け寄ってきた保健委員が、私の腕を引っ張って保健室へと連れて行った。
「ユマ、大丈夫?」
 一時間目が終わり、休み時間に親友が寝ている私の様子を見に来た。
「あんた、ほんと体弱いねー。朝礼で貧血、何回目よ」
「知らない。二時間目から行くよ」
 保健の先生にその事を告げ、私とカナは廊下を教室へと歩く。
「地面がピンク色してたよ」
「あ、今日はブラックアウトじゃなかったんだ」
 私は貧血の時はまず目に来て、物が見えなくなってしまう事が多い。
「びっくりした」
「こっちもね」
 チャイムが鳴り、それぞれの席に着く。教師が少し遅れて入って来て、今日の授業を再開した。
 私は教室の後方の席で、先程一瞬だけ見えた奇妙な世界の事を考えていた。
 もしかしたら、あれが私以外の人に見えている世界の真実の姿かもしれない。
 けれど、その事をどうやって確かめれば良い? 私にとっての赤は誰かにとっての青…言葉の響きすら聴こえ方が違うのだとしたら、その違いをどうやって知る事が出来ようか。
「ユマちゃん」
 そんな事を考えていたら、二時間目の授業が終わっていた。一人の男子生徒が、私に一冊のファイルを差し出している。
「今日、日直だって。朝居なかったから俺が日誌預かっといた。続き書いてね」
「あ…うん…ありがとう…」
 私にそれを渡して教室を出て行く彼を見詰めた。大好きなあの人、あの人の目には私はどう映っているのか。それをどうやって知れば良いのか。
 宇宙人に見られていたらどうしようか。
 他に好きな人はいるんだろうか。
「はーい、席に着いてー」
 また、考え事をしていたら休み時間が終わってしまった。私は日誌を机の中に押し込むと、学級委員の号令に合わせて起立した。

『創呪擦罪 骨肉相噛』がアマプラで聴ける事ご存知でした?
私は知りませんでした。