強情ラブレター

  • G
  • 656字

 私が好きで好きで好きで仕方なかった人は、所謂お家の都合とやらでどうしても後継ぎを持たねばならなかった。
 虚弱な体の私はそれを知った後早々に彼の妻となる夢など捨て去った。なに、まだ言葉でその想いを伝えた事など無かったのだ。このまま墓場まで彼への恋慕は持って行き、それまで何も無かった顔をしてさえすれば良い。近しい友人として存在し続けられればそれでも幸福だ。
 そうこうしている内に、とうとう私は病室のベッドから起き上がれない身となった。囚われてからというもの、彼は何故だか毎日の様に見舞いに来る。
 そう、何故だか。
「強情だな君は」
 ある時彼は私の目を見ずにそう言った。視線の先には、彼自身が選んで買ってきた薔薇の花束が瓶に活けてある。以前に私が好きだと言ったからか、二回に一回は薔薇を持って来るのだった。
 私は黙って彼の横顔を見ていた。知っているよ、そんな事。
 でも、素直になったからって、救われる訳でもないじゃないか。
「ねえ」
 彼が振り向く。彼の側に伸ばしていた腕の近くに置かれた彼の手が少し動いた気配がしたけれども、構わず私は続けた。
「それね…匂いがきついから、もうちょっと枕元から離して置いて」
 彼が立ち上がる。一瞬、いつも冷静沈着な彼からは想像も付かないくらい恐ろしい顔をした気がした。その表情に魅入られ、正気に戻った時には、窓の外に赤い花弁が散っていた。
 そうだ、これで良いんだ。
 私は彼を幸せに出来ないし、彼も私を救えやしない。
 どう足掻いたって結果が同じなら、無い物強請りなんて虚しいだけだろう?


歌詞

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