第1章:戸惑うフェリちゃん

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 暫しの沈黙の後、大きな声を出したのはスツルムだった。
「あっ、あたしは無理だぞ!? 上流階級の言葉遣いなんて」
「解ってるよ。だから役者が必要な訳」
「私も無理だぞ!? 生きてる時に何を習ってたかなんて全然覚えてない!」
「フェリちゃんは替えが効かないから頑張って。いずれ屋敷はフェリちゃんの物になるんだって、顔を覚えてもらわないといけないんだから」
 私も便乗したが、替え玉は却下された。
「って事はつまり、スツルムの本名を使って、ドランクと夫婦の振りをする人が必要なのね」
「団長さん、その通り。僕達も不用意に本名を知られたくないから、この騎空団の中から選びたいんだけど……」
 そして皆の視線は、示し合わせたかの様に一人に集まる。
「……私か……」
「まあ、この艇に乗っててフェリちゃんくらいの歳の子供が居ても不思議じゃなくて、上品な立ち振る舞いができるのはカタリナしか居ねえだろ」
「ラカム、流石にそれは言い過ぎ。カタリナまだ二十代なんだから」
 ジータがすかさずフォローする。
「レナとかの方が良いんじゃない?」
「いや、それでも年長の方である事には変わりないし、十代後半で産んだという事にすれば誤魔化せるだろう」
 本人は諦めている。レナも率先してやりたそうにはしていない。これで役割は決まったか、と思いきや、ドランクはまだ解散を許さなかった。
「最低でも二週間は生活しないと、島の人に覚えてもらえないだろうねえ。団長さん、それは大丈夫?」
「うん! 私達は近くで仕事してるし」
「いや、まだ役者が必要なんだよ。当時はどうだったのか知らないけどさ、貴族の屋敷に使用人が一人も居ないなんて、別荘に一時滞在してるだけだとしても不自然だからね」
「あ、そっか」
「だから何人かはメイドさんなり執事みたいな感じで、一緒に居てくれると助かるなあ」
「私やるわよ。ドランクと夫婦の振りするよりはずっと気楽だし(団長やフェリにはいつも世話になってるし)」
「ロザミアさん、本音と建前逆、逆」
 ドランクは苦笑する。
「他の人も、適当に役割考えて出入りしてもらって構わないよ。多分ちょっと手入れしないと、すぐに屋敷で寝泊まりできるようにはならないだろうし、人手は欲しいんだよね」
「俺達も行くぜ~」
「いや、ローアイン達はその言葉遣いと服装どうにかしてからにして」
「まじで?」「でじま?」「まじでじま」「「「ウェーイ!」」」
「その感じで貴族の屋敷に出入りできると思ってた方がマジで? だし、それもう死語でしょ」
「お前が居てほしい人間を指定した方が良いんじゃないのか?」
 スツルムに言われ、ドランクは「そうかも」と皆の顔を見渡した。
「ラカムとオイゲンさんは、屋敷の修理に来た技師さん。実際に直してくれると嬉しい」
「へいへい、タダ働きね」
「ちゃんと実費は払うよ~。スツルム殿に団長さん、ルリアちゃん、それから……ナルメアさんとロザミアさんは、メイドもしくはメイド見習いって事で。スツルム殿がメイド長ね。女の人は他にも来たい人が居たら、メイドって事で出入りしてもらって大丈夫」
「何か面白い物でもあるの?」
 イオの問いに、ドランクは口の両端を吊り上げる。
「古い魔法書とかあるんじゃないかな。虫食ってないと良いけど」
 じゃああたしも、とイオが参戦する。
「言うまでもないけどアオイドス君達は顔が売れてるから留守番で……エルモート君、執事役できる?」
「無理に決まってんだろ」
「そっか。カシウスは?」
「シツジとは何だ?」
「論外だった。でもジャミル君は若すぎるしなー」
「女でも良ければ、私がやるわよ」
「ロゼッタさんはフェリちゃんの家庭教師、かつ僕の不倫相手でフェリちゃんの実の母親っていう設定で行きたいから駄目です」
「急に細かすぎない? 別にそれ公にする訳じゃないわよね」
「もちろん。うーんでも執事どうしよう……」
「……そうだ!」
 ジータが何か閃く。
「ターニャを男装させるのはどう?」
「ええっ」
「採用」
「即決……」
「大丈夫だよ。他の人との会話は僕が率先してやるし、そういうキャラで押し通すから。黙って立っててくれるだけで良いし、何なら服も女性用スーツとかで良いよ」
 ターニャはそれを聞いて胸を撫で下ろす。
「まあ、こんなもんかな。それじゃ、僕とスツルム殿とフェリちゃんは、一旦籍を作りに行くから、団長さん達は先にトラモントに入って準備しててくれる?」
「オッケー任せて! メイド服どんなのにする?」
 早速ジータはナルメアにウキウキ顔で相談している。やれやれ、と私は肩を竦めつつも、一先ず皆の協力が得られてありがたかった。


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