第1章:招待状

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  • 1942字

「ジュリアス、ルイーズ、どっちでも良いからパパの事適当に起こしてね。ママは買い物に行ってくるから」
 どちらでもいいからやってくれ。双子にとってこれ程厄介な指示は無かった。どちらか一方を名指ししてくれれば良いのに、「どちらでも」と言われたら、双子の間の暗黙のルール、「いつでも何でも平等に」という観点から、結局二人で行かなくてはならないからだ。
「今日はどっちがパパの上で跳ぶ?」
 兄のジュリアスが黒くて丸い目を妹に向けて問うた。黒い髪をショートにした少女が、同じ色の目を細める。
「そろそろ止めた方が良いって。その内肋骨折っちゃうよ」
 ルイーズの賢明な判断に従い、二人は寝室で眠る父を叩いて起こす事にした。
「パパー起きてー」「九時だよー」
 布団を頭まですっぽりと被った父親が、中でもぞもぞと動き始める。
「休みの日くらいゆっくり寝させてよー」
 医者である父親の労働が過酷である事は、中学生になったばかりの双子にも解る。双子は一瞬顔を見合わせたが、母親の言付けも無視できず、再び叩き始める。
「大人がそんなんでどうするのー」
「ママ買い物に行っちゃうよー」
 後者の言葉に父親は漸く眠気を吹き飛ばす気になった。彼の妻は教師だ。医師と同じ重労働に就く妻だけに家事を任せてもいられない…というのは建前で、帰ってきた時にまだ寝ていたら今日の食事を準備してもらえない可能性がある。働かざる者食うべからずなのだ。
「解った。起きる起きる」
 父親が布団を自身の体から剥ぐと、双子とは似ても似つかない真っ白な顔が顕になった。頭髪は黒いが、それも染めている。
 かつて冤罪でこの国を追われた事もある、波瀾万丈な人生を送るアルビノの医師、フェリックス・テイラーだった。
 若くして作った二卵生の双子に半ば連れて行かれるようにして洗面台へ。フェリックスが歯を磨き始めると、双子は自分達の役目は済んだと言わんばかりに、週末を謳歌すべくリビングへと駆けて行った。
 そのまま彼が身支度をしていると、出かけた筈の妻が玄関から戻って来た。
「何持ってるの?」
 フェリックスは髭を剃った顔を拭きながら、彼女を振り返らずに言った。真っ白な髪を長く伸ばした妻がキョトンとした。
「なんで何か持ってるって判ったの?」
「さあ?」
 フェリックス自身も言ってから疑問に思う。
「なんでだろう」
 このところ、こういった会話が増えた気がする。
「…まあ良いわ。ティムから手紙」
「ティムから?」
 数年前に異国へと移住した旧友からの突然の手紙に、夫婦は互いに怪訝な顔を見合わせた。
「…嫌な予感しかしないんだけど」
「私も」
 彼の手紙を切っ掛けに、とんでもない計画に巻き込まれた事は、もう十五年も前の事だが忘れられるわけがない。まあ、結果としてハッピーエンドだから良かったものの。
「読むわね?」
 眼鏡をかけていないフェリックスにそう言って、白い指が封筒を開いた。

フェリックス・テイラー、ブルーナ・テイラー夫妻へ

 御無沙汰しているが如何がお過ごしだろうか。
 突然だが、私も今日で三十三歳になった。少し過ぎてしまうが、話したいこともあるし、明日、パーティーでも開こうかと思っている。
 今日明日は休日で、明後日は祝日であろう? 是非ともコリンズに来てくれないか?

ティモシー・コリンズより

「変わらないわね、この強引さ」
 読み上げたブルーナが溜め息を吐いた。封筒に消印が無い事から、魔法で直接送り付けてきた事も判る。
「どうする?」
「どうしよう」
 フェリックスはとにもかくにも朝食を食べる為にキッチンへ。ブルーナも一先ず出掛けるのは取りやめだ。
「私、前は脅されたのよ」
 笑いながらブルーナがフェリックスの向かいに座る。
「じゃ、行かなかったら今回もそうかな」
 フェリックスは焼いたパンを一口齧ってげんなりした顔を見せた。
「行こうか」
「あら、従順じゃない」
「三連休なんて滅多に無いしね」
 今日明日は普通の週末だが、 明日は十四年前、国が王政を止めた記念日である。学校は全て休みになるし、フェリックスは開業医なので休診日は自分の裁量で決められる。今は定期的に診てやる必要がある患者もいない。
「ティムが結婚してから一度も会ってないし、会いたいって言ってんならまあ行ってあげても良いんじゃない」
(本当の目的が他にありそうだけど)
 ティムが計画の為に掘ったトンネルは整備、拡張され、今は定期的に、そして安全に馬車が二国間を往復していた。フェリックスもブルーナも車や馬車を自分で走らせる事は出来ないが、それに乗って行けば良い。
「子供達はどうする?」
 フェリックスは即答した。
「とりあえず実家で預かってもらおう」
 それでも、国の外に気軽に子供を連れて行けるだけの安全性は、まだ確立されていなかった。

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