第9章:捜索団、結成!

  • PG12
  • 2205字

 そのメールの件名は見るからに怪しかった。

あなたの望みを叶えませんか?
差出人:永川英次

(…迷惑メール報告っと…)
 花色はよくある事だと思い、メールを開かないままスパム報告だけをして捨ててしまった。その後引き続き少しだけログサーチの仕事をした後、客人の為の茶菓子を準備していたら、事務所の扉が開いた。
「はろろーん」
 姫が中学からの帰りに立ち寄ったらしい。どうせ家に帰ったって誰も居ない。
「お帰り姫ちゃん」
「あれ、花色ちゃんだけ?」
 花色が机の上に茶菓子を並べている他は人が居る気配がしない。
「お客様が来るそうよ。嬢ちゃんを迎えに行ってくるって言ってたから、もうすぐ帰ってくると思うけど」
 余ったらあげるわね、と物欲しそうな姫に言い、皿を並べ終わると窓に近寄る。丁度黒い車がビルの一階に滑り込んだ。
「戻って来た」

「つまり霊能探偵!?」
 車内で勇は先程の疑問を妃にぶつけた。その返答に隼が驚く。
「『超能力捜査員』だってば」
 ハンドルを切りながら妃が訂正する。
「スミマセン。いやー、本物に会えるなんて!」
「もう辞めたけどね」
 次に勇が尋ねたのは事実関係についてだ。
「その…俺、あんまり親父の事とか知らないんですけど、真田さんとはどういう関係だったんですか?」
「大学の同僚だね、当時は。お父さんが教授のポストに着いたばかりで、その下で働くスタッフを公募して、採用されたのが文隆おじさん。私達、当時は大学の近くに住んでて、ママも仕事で不在がちだし、学校帰りとかによく研究室に遊びに行ってたのよ」
 等と話している間に車は小さなビルに滑り込む。その直前に勇の目に入った看板には「園田ビル」とあった。
「二階だよ」
 先に車から降りた嬢が率先して二人を導く。妃は車庫入れに時間がかかったらしく、彼女が上がってくる頃には花色が客人にお茶を注いでいた。
「何千年経っても、やっぱりお茶は入れたてが一番」
 言いながら口を付ける嬢を、勇と隼が変な目で見た。
「あ、こっちの話…」
「まあ一服しなよ。ところで、姫は何してんの?」
 自分は所長の椅子に腰を下ろしつつ、妃がソファーの一角に腰を落ち着けていた末妹を見る。
「妃ちゃんが寂しがると思って来たのに何それー」
「寂しいのはあんたでしょ。私は花色が居れば充分」
 姉に相手にされなかった姫はふてて今度は客人二人を改めて見る。
 途端、目の色が変わった。
「ところで、お名前何て言うんですか? 私、真田姫って言います」
 要は勇の見た目の良さに、嬢が千五百年思い続けている相手とは知らずに釣られてしまったのである。
「瀬良勇」
「俺、片瀬隼ね」
 大体何処へ行っても勇の方がちやほやされるのには慣れているので、隼は毎回負けじと自己アピールする。しかし今回はいつにも増して厳しい状況だった。
「瀬良ぁ!?」
 当時の記憶は幼すぎて殆ど無い姫にとって、瀬良文隆の情報は家族から聞いた、「研究対象の貴重な物品を盗んで逃げた父親の部下」というやや偏ったものがほぼ全てだ。文隆=悪者、そういう構図が彼女の中にあった。
「ちょっと! 呑気にお茶出してもてなしてる場合!?」
「あーっ、もう五月蝿いわね。彼は文隆の記憶をなくしてんのよ」
 邪魔するなら帰りなさい、と摘まみ出されそうになった姫はようやく静かになる。
「さて…正直、人手が増えて助かる。私と花色だけでは探偵事務所との兼業はなかなか大変だったから、これで本格的に父さん達の捜索に乗り出せるわ」
 何も知らない姫が嬢達三人と、妃の顔の間を視線を行ったり来たりさせながら尋ねた。
「何々? 何するの?」
 しかし妃は無視だ。
「特に片瀬君、君のログサーチ能力には期待するわ。何でも、ママの事まで調べ上げたんでしょ?」
 これでも三姉妹は両親の職業についてはかなり気を遣って知られないようにしていたのだ。憧れの(元)超能力捜査員に褒められて、隼は舞い上がる。
「瀬良君はとにかく、なんとかして昔の記憶を取り戻せないか頑張ってみてくれない?」
 幼い勇が父親の思惑についてどれ程知っていたかは判らないが、妃は勇の遭った「事故」とやらが怪しいとみていた。
「…解りました」
 勇は改めて覚悟する。父親がどうして自分達を捨てたのか、知りたい。
 もしかして…万が一、何か勇が納得できる理由があったのなら、彼の事を許せるかもしれない。
 そうは思ったが、結局、勇は自分の父親が単なるコソ泥だと認めたくないだけの様な気もしていた。
「嬢はそれを出来る限りサポート、良いわね?」
 嬢は妃が気を利かせてこの役回りにしてくれた事を感じ取り、大きく頷いて見せた。
「妃ちゃんっ、姫は? 姫ちゃんは!?」
「自分の事自分の名前で呼ぶようなお子ちゃまに預ける仕事はございません」
 妃が冷たく言い放つと、本格的に五月蝿くなった姫は本当に摘まみ出された。暫くドアの向こうで喚いていたが、暫くして自宅に戻ったらしい。
「相変わらず姫ちゃんには冷たくない?」
「ああいう鬱陶しいの苦手なのよ。さて、」
 妃は今度は三人を立たせた。
「此処は君達の家からは遠いでしょ。送って行くわ」
「情報の交換とか、今日できる限りしておかなくて良いんですか?」
「別に急いでないし、後で事務所のサーバーに入れるように設定しておくわ。誰でも自由に見たり入れたり出来るフォルダを作っておくから、目を通しておいて」
 勇の問いに妃は言う。
「どうせ今日一日じゃ読み切れないだろうし」

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