第3章:死する躰

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 午後二時。前田は政府の建物のロビーで、美術館で買った根付を揺らして眺めていた。
「……そろそろ昼飯食べないか?」
 鶴丸が提案する。美術館や博物館の類は一通り見てしまった。万屋はいつもと代わり映えしない。それに今日は暑いので、外を宛ても無くぶらぶら散歩する気にもなれない。これ以上鶴丸を待たせておくのも忍びなかった。前田自身も、さっきから腹が何度も鳴いている。
「そうですね……そうしましょう」

「終わりましたよ」
「お疲れ様です」
 執務室に戦果を報告しに行った江雪を出迎えてくれたのは、審神者ではなく一期だった。
「主は……?」
「現世にお戻りになっています」
 一期に簡単に報告し、江雪は手入部屋へと向かう。自分は無傷だが、誉欲しさに無茶をした清光が怪我をしたのだ。江雪の姿を見て、清光が呟く。
「主はまだ帰ってきてないのか」
 左腕を負傷した清光は、安定の手を借りながら服を脱いでいた。手入部屋では、二種類の修理を行う事ができる。一つは、付喪神が宿っている、刀身の写し[レプリカ]の修復。これは審神者の霊力頼みなので、審神者が不在ではできないが、幸いにも今回清光の刀身は無事だ。もう一つは、人の形をした傀儡の修復。上半身裸になった清光は、江雪が引っ張り出してきた水槽に、少し青く色付いた液体が満たされていくのを眺める。
 左腕を水槽の中に。ぴりぴりとした感覚が負傷した箇所を包み込む。この感覚は好きではないが、深い傷でなければ短時間で綺麗さっぱり治療できるので、一時の我慢だ。
「これ、洗濯しとくよ」
「頼む」
 安定が清光の服を持って出て行った。江雪はチューブの弁を閉め、同じく退室しようとしたが、呼び留められる。
「あんた、現世に行った事ないよね」
「……それが何か?」
「じゃあ主に変な『虫』が纏わり付いてるのも知らないんだ」
「虫……ですか……」
「帰りが遅いのはその所為だったりして。てか、そもそもそいつに会う為に戻ってたりして?」
 清光は江雪を挑発する。そうする事で清光が有利になる訳ではないのだが、江雪の預かり知らない事をひけらかすだけでも少しはストレス発散になる。
「……だから、どうしたというのですか」
 江雪はこれ以上の事は聴くまい、と障子を開けて出て行った。


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