第2章:江雪が望むもの

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  • 7084字

「よく考えたら、あんた達は江雪の裸なんて見放題だよね」
 また別の日、仕事中の審神者がそう言うと、近侍の鯰尾藤四郎はにかぁ、と笑った。
「まあ、男同士ですからね。主が見たがってる胸板どころか下も見放題ですよ」
 どんな風か教えてあげましょうか? と楽しそうだが審神者は制止する。
「やめろ私の楽しみが減る」
「……下も見る気なのか……」
 別の仕事をしていた骨喰がぼそっと何か言ったが、聞こえないふり聞こえないふり。
「そんなに見たいなら覗きでもすれば良いんじゃないですか?」
「私がそんな事をしたら、他の刀達がゆっくりお風呂に入れなくなるでしょ?」
 江雪を覗く分には構わないと思っている無意識発言が、一層骨喰を呆れさせているのには気付いていない。
「またまた主は変な所カタイんですから~。俺なんてたまーにやってま……」
 此処で鯰尾は失言に言葉を止める。男ばかりのこの本丸、覗くとしたら相手は一人だ。鯰尾は審神者の計算ノートでぶん殴られた後、一週間の風呂掃除を命じられた。
 鯰尾が部屋を出て行ってから、審神者が切り出す。
「実は一期に影響されて、私もカメラ買っちゃった」
「携帯とやらじゃ、駄目なのか?」
「私のは防水じゃないからね」
 はい、と買ったばかりのカメラを審神者は骨喰に託す。防水、という事は……。
「……俺が撮るのか……」
「上手く撮れたら骨喰にも買ってあげるよ。欲しがってたでしょ?」
 カメラで買収される程度には、此処の骨喰はちょろい。
「写真を撮っておけば、記憶がなくなっても……」
 言いかけた言葉を骨喰は飲み込んだ。そのまま仕事を続けていると、明るい声が聞こえる。遠征の報告に来た獅子王を、審神者は肩の鵺ごとわしゃわしゃ撫でた。
「他の皆は?」
「江雪達は先に風呂行ったぜ。俺も行ってくる」
 審神者は骨喰を小突く。渋々立ち上がると、獅子王を追いかけた。
「お? お前も入んのか?」
「いや、盗撮を頼まれた」
「盗撮? また主の悪巧みか?」
 骨喰は頷く。ちょいちょい、と獅子王はカメラを渡すように手で示した。
「面白そうだし、俺が撮ってきてやるよ! 誰を撮れば良いんだ?」
「江雪だ」
「了解!」
 浴場へと駆けて行く獅子王の背中を、骨喰は不安気に見送る。良くない事が起こりそうだ。
 罰としての風呂掃除が終わった後、鯰尾はそのまま更衣スペースの椅子に寝転がってだらだらしていた。どうせ執務室に帰ったって仕事が待っている。審神者の側に居るのも辛い。
「おや貴方、今日は近侍ではありませんでしたか?」
 最初に入ってきた宗三が尋ねた。鯰尾はへらへらと適当に誤魔化して立ち去る。入れ替わりに江雪、小夜、清光と安定がぞろぞろと入ってきて、最後に獅子王が滑り込んで扉を閉めた。
 しかし、どうやって撮ろうか。浴場に持って入るのはタオルだけだし、それに包むか。
「何持ってんの?」
 考えていると早々に安定に見つかる。幸いにも左文字三兄弟は既に浴場へ入っていた。
「いや、主が江雪を撮りたいらしくて……」
「あー、『鉄壁の襦袢』ね」
 清光と安定は納得した様に頷く。
「で、撮ると」
「やめた方が良くない? 見つかったら弟二振[ふたり]にも斬り殺されそう」
 そう言われると、軽はずみな気持ちで引き受けた獅子王の意志が揺らぐ。やっぱやめるか。そう言おうと顔を上げた時、安定の向こう側に二つの顔が覗いているのが見えた。
「話は骨喰から聞きました! 撮影に成功したら、主も江雪の事追いかけ回すのちょっとはマシになるんじゃないですか?」
 鯰尾だ。その隣で骨喰は面倒くさそうに、殆ど無表情の眉をほんの少しだけ傾かせている。単に面白がってるだけだろう、との清光の指摘に、鯰尾は舌を出した。
「骨喰のカメラもかかってますしね! 手伝いますよ獅子王!」


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