第2章:江雪が望むもの

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 審神者は部屋の中で嫌な汗をかき始めていた。骨喰が戻って来ない。心配しながら仕事をしていると、廊下から低い声が響いてきた。努めて平静な顔をして迎え入れるが、やはり江雪の手の中にあるカメラを見ると動揺を隠せない。
「盗み撮りとは、感心できませんね」
 湯から上がって急いで来たのか、まだ湿っている髪を後ろでまとめた江雪は、カメラを床に置きながら空いていた座布団に座る。
「まさか骨喰が本当にやるとは思ってなかったの!」
「骨喰? 獅子王と鯰尾に頼んだのでは、ないのですか?」
「え? 私は骨喰に渡したんだけど……。あの[]、自分では何も買わないから、敵を沢山倒した褒美にそのままあげようと思って……」
 刀剣達の動きは、全て埋め込まれた転送装置の子機に記録されている。一部の詳細なデータ、例えば出陣先での戦績は審神者が確認できるようになっていた。
「……そういう事でしたか……」
 壊れてる? と心配する審神者に江雪は表情を緩めた。その眼差しがあまりにも優しくて、審神者は目を逸らす。
「中身は消させていただきましたが、壊れてはいませんよ」
「良かった。骨喰達は?」
 江雪は立ち上がる。シャンプーの匂いが審神者の鼻をくすぐった。
「まだ入っていますよ。全員、かなりきつく叱ってしまったので……。可哀想な事をしました」
「いや、獅子王も鯰尾も主体的にやったと思うからそれは良いと思う……」
 そうですか、と江雪は去ろうとしたが、ふと、立ち止まって尋ねてみる。
「私も、成果を出せば何か強請っても良いのでしょうか?」
「珍しいね、欲しい物でもあるの? 物によるかな。江雪は出陣回数も少ないし。何?」
 江雪は息を吸った。一拍置いて、その言葉を吐き出す。審神者は、想定外の答えに持っていたペンを畳に落とした。
「できない事であれば、構いません。今の話は忘れてください」
「……いや、努力してみる……」
 くしゃ、と審神者は左手を置いていたメモ帳の一番上を握り、しわくちゃにする。力んだ体の力を抜き、いつもの調子で付け加えた。
「並大抵の成果じゃ足りないよ。やっぱりその浴衣や襦袢を脱いでもらわないと」
 江雪は笑っただけで今度こそ去った。審神者は机に肘を突く。
「……何を考えてるんだか」


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