第2章:江雪が望むもの

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  • 7084字

「まったく、面白いですね貴方達は」
 執務室。宗三は机の向かい側で、机に伏せた審神者の鏡を弄っている。彼が今日の近侍だ。
「お互い素直じゃないというか」
「あんたには言われたくない」
 額を指で弾くと、宗三は綺麗な顔をしょっぱく歪める。
「さっさとやる事やってしまえば良いじゃありませんか! お互い好きなんでしょう?」
「神隠しが怖いからね」
 それはそれとして、と、無意識に審神者の目線が宗三の手首へと移動した。白い腕は細いが、血管が浮き出ていて宗三の身体も男である事を感じさせる。宗三もその視線に気が付いた。
「……どうぞ」
「わーい」
 棒読みでそう言うと審神者は差し出された宗三の腕を撫ぜる。
「ほんっっっと肌スベスベだよね!」
「ふふ……加州よりもずっと綺麗でしょう? 脚も触りますか?」
「是非!」
 極上の肌触りの膚を持つ上にべたべた触っても怒らない宗三が近侍の日は、フェチの審神者には至福の時間だ。宗三は自分の美しさを見せびらかしたいので需要と供給は一致している。
 江雪は執務室の前で複雑な顔をしていた。先程の発言をきちんと謝罪しに来たのだが、どうやら審神者の良くない癖が出たらしい。入って行きづらい。
 それに、神隠しか。諱を呼べば何でも隠してしまう訳ではないが、気持ちが向いている相手にはその危険性が高い。十分な霊力があれば諱すらも必要無い。付喪神も、その力を全て意のままに操れる訳ではないから、暴走すれば無意識の内に彼女を隠してしまうだろう。
 そんな事は望まない。だから、まだこれ以上は近付けない。今は。
 引き返すと、途中で大倶利伽羅とすれ違った。
「おや、それは?」
「ずんだ餅だ……」
 調理セットを買ってもらった礼に、審神者へ差し入れるらしい。倶利伽羅は江雪に一つ渡すと、江雪が歩いて来た廊下を辿る。
「入るぞ」
「はわわわわわ」
「あっちょっ……待っ……」
 許可を得る問いと同時に襖を開けた大倶利伽羅は、審神者が宗三の膝の上に座り、彼の襟ぐりを掴んでいる所を見てしまった。暫しの沈黙の後、ずんだ餅を持ったままそっと襖を閉じる。
「あっ! 待て! 待って倶利伽羅!!」
「お願いですから兄様には内緒でえぇ!」
 執務室から飛び出し、倶利伽羅の腰巻を掴んで懇願する。倶利伽羅は溜息しか出ない。
「お前達がどういう仲だろうがどうでも良い……。誰にも話すつもりはない」
「ありがとうございます!」
「宗三で襦袢脱がす練習してたと知れたら本気で愛想尽かされる!」
 大倶利伽羅は二度目の溜息を吐いた。誰かこのど変態達を矯正してくれ。


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