第4章:消えたジータちゃん

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  • 5596字


「久し振りだねえ。皆元気そうで何より」
「ドランク達も! お昼食べた?」
「さっきお店で。でもちょっと一服させてもらおうかな」
 僕は数ヶ月振りにグランサイファー一行と合流した。定期便の少ない群島の方に営業しに行きたい旨を、以前から時々やり取りしていた手紙に書いた所、近くまで送ってくれる事になったのだ。
「まーたグラサイをアッシーにしやがって」
 僕達に出す飲み物を作りながら、厨房のローアインが口を歪める。
「運賃くらいは働けっつーか?」
「わかってるよ。何か仕事ある?」
「あるある」
 ローアインが二人分のグラスを手にテーブルへやって来る。食堂をきょろきょろと見回してから、僕達に囁く。
「今日この後、暫くダンチョの事、連れ出しておいてくんね?」
「何かあるのか?」
 美味いな、とスツルム殿がグラスを置いて呟く。
「もうすぐダンチョの誕生日なワケ」
「なるほどね」
 そこから先は説明されるまでもなく想像は付く。何かサプライズでも企画していて、その相談や練習を行いたいのだろう。
「そういう事なら、粘ってみるよ。と言っても、二、三時間もあればこの町は大方見て回れそうだから、夕方には戻って来ると思うけど」
「サンキュー。そのくらいあればだいぶ捗りそうだわ」
「ねえねえスツルムさん」
 ローアインと入れ替わりにやってきたのは、桃色の髪の剣士だった。
「ナルメア?」
「もし良かったらなんだけど、鍛錬の相手してくれない? 前にあったトーナメントでスツルムさんの剣技を見て、一度対戦してみたかったの」
 スツルム殿はちらりと僕を見る。微笑むと、スツルム殿はナルメアに対して頷いた。
「さぁて……何処に行こうかなあ……」

「買い物?」
「そう。魔法の本とかまた見繕って……って、知らない人が増えてる」
「増えてない増えてない」
 談話室に集っていた面子を見て僕が呟くと、団長さんは否定した。
「一時的に宿代わりに使ってもらってるだけ」
「知らない人って何だよ!? お兄ちゃ……ドランクと私達の仲だろ!?」
「ベアちゃん達の事は解ってるよ。じゃなくて、そこの眼鏡の人とか、眼鏡の人とか、黒髪の人とか、ブロンドの人とか……」
「紹介してなかったね。眼鏡の人達がアイザックとグウィン。黒髪はイルザで、ブロンドはカシウスね。あ、皆、こちらスツルム&ドランクのドランク」
「噂はかねがね」
 黒髪のエルーンの美女が礼をしたので、僕も返す。この人が一番偉いっぽいな。ベアトリクスも居るし、「組織」の人達か。そう言えば、手紙に月とのいざこざが解決して、組織は解散したって書いてあったっけ。
「必要なものの買い出しは朝済ませちゃったけど、折角ドランクに見てもらえるんだし行こうかな」
「それ、自分も行きたいです」
 団長さんが立ち上がったのと同時に、まだ十代半ばと見られる少女――先程の説明によればグウィンが声をあげた。
「構わないよ。準備が出来たら降りてきてくれるかな?」
 鞄を取りに行った少女達とは反対方向に歩き出す。全員への挨拶は後でも良いが、親しい人には先に声をかけておこう。
「ラカム」
「おう、来たか」
 停泊中だが、案の定ラカムは操舵室に居た。煙草の臭いが染みついた此処は、最早彼の二番目の自室の様なものなのかもしれない。
「今回はちょっとの間だけだけど、世話になるよ」
「命を預かる方は楽じゃねえぞ」
「はは。ラカムの腕で落ちるんだったら他の騎空艇でも落ちちゃうよ。ところで、アオイドス君は?」
「あいつは兄弟引き連れて全空ツアー中だ」
「そうなんだ」
 そこでふと、自分がなぜ団長さんを連れ出す事になったのかを思い出す。
「ラカムは打ち合わせに参加しないの?」
「何の?」
「何のって……団長さんの誕生日!」
「ああ」
 ラカムは煙草を灰皿に押し付けた。新しいのを取り出して火を付ける。
「ただの誕生日じゃねえぞ。成人式だ」
「なら尚更祝ってあげなよ」
「誰も祝わないとは言ってねえだろ。俺は操舵が最優先だから企画は他の奴等に一任してるだけだっつの」
「なるほど」
 それじゃまた後で、と言おうとして、ラカムの呟きに足を止める。
「『まだ早い』って言い訳が使えなくなっちまう」
 ……実にラカムらしい悩みだ。
「残念ながら、僕には良いアドバイスができそうにないねえ」
 僕は衝動的に手や口が動くタイプだ。最初にプロポーズした時も、何かきっかけがあったとかじゃない。ただその日そういう気分になっただけ。
 そして、断られたからってそこで全てが終わる訳じゃないとは、思っていた。
「硬派なのはラカムの良い所だと思うけど、恋愛市場は早い者勝ちなんだから、失敗を恐れて何もせず後悔する羽目にならないようにね」
「結局一方的にアドバイスしてんじゃねえか」
「えーでも聞きたかったんでしょ?」
 おちょくるとシッシッと追い出されてしまった。丁度団長さん達も降りてきた気配がする。さて、本屋とカフェで何時間潰せるだろうか。


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