第8章:父親探し

  • PG12
  • 1563字

 妃は窓から射し込む春の日差しに目を覚ました。
「良い夢見れた?」
 花色がお茶を入れながら尋ねる。妃はお茶を一口だけ飲んで立ち上がった。
「客が来る」
「何人?」
 妃が目覚めた途端に突拍子も無い事を言うのは日常茶飯事なので、花色は落ち着いた様子で尋ねる。夢見で何か感じたのだろう。
「二、三人。迎えに行ってくる」
「行ってらっしゃい」
 花色が小さく手を振る。妃は薄く微笑むと上着を羽織り事務所を出た。
 妃の黒い車が出て行くのを窓から見届け、花色は机に戻る。
「千五百年か」
 思い出して独り言を呟く。
「このままでも構わないから、その時間、一緒に居られる方が嬉しいな」
 その声をまるで聴いていたかのようなタイミングで、花色が言い終わるや否や、彼女のコンピューターが新着メールの受信を通知した。

「父親探し?」
 放課後、勇・嬢・隼は食堂でアイスを食べながら話していた。
「隼は検索能力が凄いんだ。こいつに頼めばネットに落ちてる情報なら大体何でも見付けられる」
 勇が説明した。嬢は白い目で隼を見た。
「TAEが私のママだとか?」
「何で原因俺だってバレてんのぉ?」
「クラスの子に訊いた」
「それはともかく」
 勇が呆れた声で言う。
「真田さんのお父さんの失踪、俺の親父の失踪と関係あるかもって話」
 父親が失踪前に残したメッセージについて嬢は二人に教えた。
「でもその時勇の親父さんも行方知れずだったんだろ?」
 隼が机の上に手のひらサイズのプロジェクターを置いた。その手前にキーボード、食堂の壁にモニターが映し出される。隼がプロジェクターの光を反射する机の天板に触れると、画面が検索エンジンに切り替わった。
「俺の親父から真田先生の方にコンタクトがあったのかもな」
 何やら素早く入力して画面を素早く切り替えながら情報を漁る隼を眺めていたら、嬢の携帯が鳴った。妃だ。
「もしもし? え、今学校の前? …解った、五分くらい待って。ごめん二人とも。姉さんが事務所で話せって。何処で誰が聴いてるか判らないから」
「何で?」
 勇の問いには「何故嬢の姉が自分達を招くのか」の他に「何故嬢が誰かと話している事が判ったのか」という疑問も含まれていた。そもそも嬢の家は遠くなかったか? 嬢が誰かに連絡していた素振りも無いし、自分がさっき二人を呼び出して今話し始めたばかりだ。勇が行動に移す前に向こうが行動に移さないとこの時間に校門前から電話がくるのはおかしい。
「詳しくは後で。とにかく早くアイス食べて、姉さん短気だから」

「姉さん」
 車にもたれて珍しくぼうっとしていた妃に、嬢は声をかけた。妃は振り返るとサングラス越しに勇を睨んだ。
「君が瀬良さんの?」
「はい」
 不思議な雰囲気のする彼女に警戒しながら勇が応える。
「瀬良勇と言います」
 次に妃は隼を見た。
「勇の幼馴染みの片瀬隼です」
 訊かれる前に答える。嬢が補足した。
記録検索者[ログサーチャー]なんだって」
「うちの花色も一応ログサーチの資格持ちなんだけど…」
 妃は最後に嬢を見た。
「瀬良さんの息子はともかく…この子に巻き込まれる覚悟、あるの? それともそんな事も考えずに広めたの?」
「姉さん…」
「すみません。俺が隼に言ったんです」
 その言葉に妃は勇を再び睨んだ。
「姉さん!」
 嬢に宥められ、少し頭を冷やした妃が話し出す。
「おじさんの目的が何か判らないけど…これ以上被害者を増やしたくないのよ。関係者になるって事は何か被害に遭う可能性が出てくるって事なの。その覚悟が無いなら、君は帰りなさい」
「きっと今ここで退散しても、後日勇に全部聴いちゃうかな」
 しれっと隼が答えた。
「おじさん、少なくとも昔は良い人だった。勇や勇のお母さんの為にも帰ってきてほしい」
 妃は一つ、息を長めに吐き出すと、運転席に乗り込みながら言った。
「それじゃ、三人とも乗りなさい」

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