第1章:男の子になっちゃったジータちゃん

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 夏!
 海!
 アウギュステ!
 ジータは今年新調した水着を着て、燦々と降り注ぐ日差しに目を細めた。暫くは旅はお休み。騎空団はこのアウギュステで、長期休暇を満喫しようとしていた。
「今日は泳ぐでしょー。明日はフェスに行ってー、それから……」
 沢山の人で賑わう浜辺を歩きながら、休暇中の予定を立てる。
 昨年問題を起こしたからか、今年はアオイドスはアウギュステフェスに呼ばれなかった。相当気落ちするだろうと周囲は思っていたが、本人は意外にもそんな素振りは見せず、夜セッションは聴衆として参加しに行く意思を見せている。なお昼間は暑くて動けないので、「夏は無理……」と言ってルナールと共に宿に引き籠っていたが。
 出演が無い、という事はバンドメンバーも練習に拘束されずに済むという事だ。ラカムはイカ焼きのバイト、ビィはルリア達と遊んだりぐうたらしたり。それぞれ休日を楽しんでいる。
 ジータは暫く海で泳いでいたが、流石に小一時間もすると飽きてしまった。浜では、ジャスティンがヤイアを相手に苦戦している。
「ちいさいティンくん~。ほらみて! かいがらがあるよー」
「お願いですからちょろちょろしないでください! あっほら」
 ヤイアを打ち寄せた波が押し倒す。ジャスティンは服が濡れるのも構わず、彼女が流されない様に素早く抱き上げた。
「まったくこの……子豚ちゃんが!」
 口汚く罵ろうとしたようだが、すんでの所で表現をマイルドにする。
「えへへー。ヤイアこぶたちゃん~」
 案外面倒見が良かったんだなあ、と感心しつつ、ジータは彼等の側を通り過ぎる。ビーチパラソルの下で寝転んでいたカタリナに声をかけ、宿に戻る事にした。
「随分早いじゃないか」
「毎年泳いでるし、今日は特に混んでるしねー。お昼までには戻るから、ルリアによろしく」
 宿で着替えて、周辺を散歩する事にする。
「夏の森ってのも、趣があるもんね」
 宿の裏側には鬱蒼と熱帯植物が茂っていた。日差しも遮られるし、こっちに行ってみよう。
 森を進むと、洞窟を見つけた。中に入っても良かったが、流石に灯りも持たずに一人で入るのは心許無い。誰かを誘って来ようと思って浜辺に戻ると、偶然の再会を果たした。
「スツルムにドランクじゃない! 二人も観光?」
「ああ、泳ぎに来た。あとフェス」
 スツルムは白い水着が良く似合う。一方でその横に立つドランクは、浮き輪を握り締めたまま顔まで蒼くなっていた。
「それと、出来たらあの人に会いにね」
 そう答えた声も震えている。ジータは首を傾げた。
「あの人ってのは、黒騎士の事?」
 他の人に聞こえない様に注意して確認する。ドランクは頷いた。
 黒騎士、アポロは例の一件以来各地を転々と逃げ回っているが、時折故郷であるアウギュステに帰ってきている。今回はオイゲンも彼女の顔が見たいという事で、ジータ達も彼女とタイミングを合わせてやって来たのだ。
「そんなに怯えて、何やらかしたの?」
「何もしてないよ!」
 ドランクは強い口調で反論し、浜に寄せては返す小波[さざなみ]を指差した。
「僕が怖いのはこれ!」
「え?」
 なんと、これは意外。
「ドランク、もしかして泳げないの?」
 この問いにはスツルムが呆れた声で返す。
「泳げないどころじゃないぞ。水に顔も付けられない」
「水の魔法使うのに?」
「それとこれとは話が別でしょ! 大体泳いで何が楽しいの!? 髪の毛も痛むしさあ」
 悪いと思いながらも、ジータは笑ってしまった。
「すっごい意外! ドランクって何でも出来るイメージなのに」
「そりゃ僕も人間だからね……」
「いつもこれだ」
 スツルムが可愛らしい溜息をつく。
「そういうお前も、泳がないのか?」
「さっき泳いでたよ。飽きちゃったから散歩してたの。あ、そうだ。泳がないなら洞窟探検に付き合ってよ」


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