第38章:祖父とボク

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 日が暮れる頃、ボク達はブルカイト領主と面会する事になった。
 こう言っちゃ失礼かもしれないけど、小さな領土には不釣合なほど立派な元王宮の、これまた立派な謁見の間に通される。
「私がアナテース・ブルカイトだ」
 暫く待っていると、仰々しいマントを羽織った、またまた立派な髭を蓄えた老人が姿を表した。この人がボクの祖父…と思う間もなく、サージェが跪いて敬意を示したので、ボクも倣う。ローズはお辞儀し、シトリン姫は見様見真似でローズの後に続いた。
「お初にお目にかかります。レーザー・クォーツ王の第一子、サージェナイ…」
「フン、初めてではない」
 ブルカイト領主は機嫌が悪そうにサージェの言葉を遮った。
「どちらがルチレーテッドだ?」
 ボクとシトリン姫を、小さい二つの目を左右に動かして交互に見ながら尋ねる。今は、ボクの服をシトリン姫の方に貸していた。ドレスは着慣れなくて苦しいらしい。
「ボクです」
 答えると、ブルカイト領主はボク達や控えている者達に隠そうともせずに悪態をついた。
「レーザーめ、すっかり男の様にしよって。ショールの女狐とアメジストのあばずれがおらなんだらこんな事には…」
「あなたこそ、娘を政略結婚の道具にしたくせに」
 サージェは我慢出来なかったのか、今度は彼が領主の言葉を切った。睨み合う二人を周囲が不安げに見守る。
「…手紙は全て読んだ。今晩、クォーツ王女達と移送中の罪人の面倒は引き受けよう」
「…ありが」
「しかしクォーツの庶子については部屋を与えん。無礼な若僧め」
 サージェはそれを聞いて立ち上がると、踵を返して謁見の間から去った。
「サージェ!」
「ルチレーテッド!」
 追おうとしたボクを領主が引き留める。
「ルチレーテッド。近くに来なさい。双子の姫は部屋に案内してやれ」
 使用人がローズ達を連れて行く。ボクは逃げ場を失ったような気持ちで、領主を振り返った。厳めしい人だけど、サージェやショール先生に対する侮辱については一言言っておかなきゃ。
「あの、いくらなんでも…」
「話はルチルの部屋でしよう。ついて来なさい」
 …強情な人だなあ。
 部屋を出て宮殿の廊下を進む。金属を使用した装飾が多いのは、ブルカイトの文化なんだろうか。
「ルチルが嫁いで行ってからもそのままにしてある」
 領主はある部屋の前で止まると、懐から鍵を取り出した。扉を開けて覗いた中は、普通にお姫様の部屋だ。
 ボクのお母さんが育った部屋。
「一度も帰って来なかったがな。興味があるなら、好きに見なさい」
 言って領主は椅子を手繰り寄せ、腰を落ち着ける。じっくり色々と眺めたいのは山々だが、ボクは振り返って続けた。
「いくらボクの祖父だとしても、サージェ達への侮辱は許せません!」
 思ったより大きな声が出てしまって、逆に焦る。祖父はギラギラと光る眼でボクを見つめていたけど、ややあって口を開いた。
「ルチルは私の一人娘だった」
 それとボクの言ってる事の関係性が判らず、尋ねようとしたところ、続きが発せられる。
「ブルカイト王家もシャイニーの血を受け継いでいるとされる一族の一つだ。シャイニーの血筋、シャイニーの力を見失わない為には、ルチルを他のシャイニーの血を引く者と結婚させ、その息子を次のブルカイト国王にする必要があった。今、レーザー自身が姫に強いているようにな」
「ローズとオニキス…」
「それを滅茶苦茶にした女を許せると? これはシャイニーガーデン全土の問題だった」
「………」
 そのことを指摘されると胸が痛む。決して、父上も、祖父も、可愛がって育てた娘を好きでもない男の元に嫁がせたい訳ではなかったんだ。
「…見た目は父親似だが、声は母親似だな」
 祖父は黙り込むボクを近くに呼ぶと、優しくその頭を撫でた。ボクは照れて一歩下がろうとしたけど、空いている手で背中を抱え込まれていて出来ない。
「…ルチルは襲われて死んだのではなかったのだな」
「…ボクを産んでから…産む時に亡くなりました」
 祖父は涙ぐみながら頷く。
「十六年前…遺体の損傷が激しいからクォーツで火葬すると聞いた。遺灰すらブルカイトには帰って来なかった。さぞ怖い思いをして死んだのだろうと思っていたが…」
 今度こそ、確実に濡れている瞳がボクを見た。
「こんな可愛い子を産む幸せの中で死んだのなら…私はそれを知れただけでも十分だ」
「……お祖父様…」
 自然とボクの目にも涙が浮かんでいる事に、自分の腕に落ちた熱い雫を見て漸く気が付いた。

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