第2章:秘密の結婚

  • G
  • 8957字


 スツルムの相棒は「女好き」だ。
「ねえねえお姉さん、今夜暇? 奢るから一杯どぉ? 痛って!」
「お前、これから仕事だぞ。せめて終わってから誘え」
「だって終わってからじゃ居なくなってるじゃない!」
 声をかけられた女性は、ナンパ男がいきなりドラフの剣士に刺された事で呆気に取られている。彼女を無視して、スツルムは今日の現場へと相棒を引っ張って行った。
 町に隣接する山で魔物が増えすぎたから、麓付近まで降りてきている個体を始末する、というありふれた内容の仕事。大した稼ぎにはならないが、戦争や紛争が無くて自分達の力が必要無いというのは、それはそれで良い事だ。それに、混沌としたこの空の世界では、どうせまたすぐにお呼びがかかる事だろう。
 町を出て人通りが無くなった所で、引きずられるようにして歩いていた相棒が歩調を合わせた。掴まれていた手で、スツルムの手を握り直す。
「やきもち妬いちゃった?」
「……別に」
 スツルムの相棒は「女好き」だ。でも、本当に好きなのは、一人だけだ。
 その事を彼は、スツルムの為に隠し通さねばならなかった。
「でも~スツルム殿がそんなに怒るなら、仕方ないよねー。今日も晩御飯一緒に食べようねえ」
 ふん、とスツルムは鼻を鳴らして、相棒から手を離した。別に繋いでおかずとも、逃げて居なくなったりしないとは解っている。
「構えろ。一匹居るぞ」
「おっけー」
 森へ続く道の先に、四本足の獣の姿。二人は頷き合うと、本日の仕事に取り掛かった。

「ちょっと長めのお休みにしようか」
 宿でドランクはそう切り出した。繁忙期と閑散期が不定期に来る仕事だ。収入が減るのは心許無いが、時間の余裕がある内にやっておきたい事が無い訳では無い。
「そうだな」
「何処か遊びに行こう! ……と言いたい所なんだけど、休暇中まで一緒に居るのは流石に怪しまれちゃうかな」
 スツルムはその言葉に、明らかに落胆する。
「勿論、一切会わないって言ってるんじゃないよ。でも、休暇の半分は別行動するようにしよう」
 大切な人を人質に取られて、脅されたり強請られたりするのはごめんだ。とはいえ、これまでに他人から恨みを買ったり、命を狙われたりする様な事をしてこなかったかと言われると、とても頷けたものではない。
 身から出た錆だ。独りで生きていくつもりで、自分が甘い汁を吸えるなら周囲がどうなろうと気にした事が無かった。
 でも、今は違う。最低でも、スツルムに自分の所為で危害が及ぶような事は、避けないといけない。
「……解った」
 スツルムは物分かりが良い。ドランクはそれにほっとして、同時に胸が締め付けられる。
「ごめんね」
 頭を撫でると、スツルムはドランクの胸に顔を押し付けてきた。
「お前も気を付けろよ」
「何? スツルム殿も、人質を取られるような心当たりがあるの?」
「お前と一緒にするな」
 もごもごとシャツの上で喋りながら、背中に腕を回してくる。
「変な女に誑かされたりとか……」
 ドランクは思わず噴き出した。耳まで赤くしたスツルムが、顔を上げてドランクを睨む。
「ちょっかいかけて回るのは悪いと思ってるよ。でも、そうしないと、スツルム殿の事が特別だってバレちゃうでしょ?」
「そもそもお前が碌な奴だったら、あたしが人質に取られる心配もしなくて良いのに」
「若気の至りは反省してるよぉ~。でも、碌でもない奴だって知ってて結婚したのはスツルム殿でしょ~?」
 スツルムは頬を膨らませる。ドランクはそれを掌で押して萎めると、そのまま空気穴を塞いだ。


このサイトではクッキーを使用しています。
詳細