第4章:空から降ってきた王子様

  • G
  • 4865字

 フェリちゃんはずっと僕に何かを訊きたそうにしていた。その内容は僕の想定通りのものだった。
『あの子が嫁いだ先の一人息子……あの子にとっては孫にあたる奴が、十年以上前に突如失踪したって。お前じゃないのか、ドランク』
 僕はただ目線を下げて、吐き捨てた。
『だったらなんだって言うの?』
 そうだと解っても、君は僕の事を好きで居てくれるの?

「……朝帰りとは感心しないねえ」
 フェリちゃんが戻って来たのは、翌日の朝だった。夕食を届けに来たローアインから、グランサイファーに居るとは聞いていたので心配はしていなかったが、演技中だという自覚が足りなさすぎて呆れる。
「ごめん……」
 そう言って部屋に戻ろうとする所を引き留める。
「待って。二週間は演技するって約束でしょ? 一応村の人とは話はついたけど、まだ安心はできないんだから」
「だからちゃんと帰って来たじゃないか」
「ピアノの練習するよ」
 ほら、と差し出した手を叩かれる。ご機嫌斜めだなあ。
「ピアノだって、フィラの方が上手くて……」
 出てきたのは涙声。流石の僕も狼狽える。
「ど、どうしたの~? 何か嫌な事でもあった?」
「フィラは頭も良いし、愛嬌もあるし、好かれるなんてわかりきってたのに……」
「フェリちゃん?」
「なのに……あいつは見境が無くて……」
 そこでハッとした様に、キッと僕を見上げる。
「女遊びも程々にしろよな!」
 そう吐き捨てて今度こそ部屋に戻ってしまう。
「ええ~?」
 身に覚えが無い。通りがかったスツルム殿が白い目で僕を見た。
「ちょっ、今のは誤解!」
「どうだか」
「私に話しかけてきた時も、随分慣れてる感じだったわよねえ」
「ああ。鼻の下をこれでもかと伸ばしてな」
「ちょっとぉ! ロゼッタさんまでやめてよぉ~」
「冗談よ。……何か男の人と揉め事でもあったのかしらね」
「それなんだが」
「うわっ! アオイドス!」
 急に出てきたのでびっくりしたが、どうやらフェリちゃんを此処まで送って来たらしい。ちゃんと髪をまとめ、顔を隠せる帽子を被って身バレ対策はしている。
「昨日ジャスティンが森でちょっかいをかけてね。それ自体は嫌ではなかったらしいが、以前にも同じ様な事があったと」
「以前……」
「生前、と言った方が正しいかもね」
 そんな事が。流石にそれはおばあちゃんも知らないよね。
「記憶が戻るのは良い事だけれど、生きていれば嫌な事だってあるもの」
「それにしても、何故急に記憶が?」
 アオイドスの問いと同じ事を、先日スツルム殿にも訊かれた。僕は同じ仮説を繰り返す。
「多分、本当の名前を手に入れてしまったからだと思う。僕が最初にあだ名で呼んだのは、その時の気分でたまたまだったんだけど……」
「名前か、なるほど」
「物分かりが良いね」
「俺もバレンティンに名を呼ばれて、色々と思い出したからな。勿論それだけが理由ではないが……」
「此処はあいつが生前住んでいた場所だ。思い出すトリガーなんて、そこかしこに転がっているだろう」
 スツルム殿が締める。今日の所はそっとしておいてあげようと、僕達は各人の持ち場に散った。


このサイトではクッキーを使用しています。
詳細