第9章:精神定着装置

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  • 1199字

 俺達は一先ず、定着室とやらを見てみる事にした。部屋の配置図と俺達が辿って来た道程を照らし合わせると、此処は「第二抽出室」の真下らしい。第一抽出室が隣にある事からして、抽出室で何かを抽出し、この部屋に送って定着させるのだろう。
 部屋には鍵が掛かっていた。レーザーカッターで扉を焼き切り、中に踏み入れる。
 作業中の科学者と思われる人間が、椅子に座ったまま死んでいた。ボロボロに朽ちかけた白衣の袖から、コントローラに乗せられた手が生えている。
「どういう事だ?」
 檻の中の人間が死んでいるのは、飢えやら拷問やら色々と考えはつくが…まさか部屋の鍵が開かなくなった訳じゃないだろうし。
「仕事中に急死したのでしょうか」
 アイも計算していたがはっきりした答えは出しようがない。
 振り向くと、見覚えのある部品が山積みになっていた。
「これは…」
 黒くて小さい直方体。
「バートが造った精神定着装置だ」
 俺に入れられた物とサイズは違うが、光沢の無い独特の形状からして間違いない。
「それは何ですか?」
 俺が一つ手に取り、アイが覗き込む。
「種明かしだ、アイ。俺にはこの精神定着装置が組み込まれてる」
「まさか。国家プロジェクト用のヒューマノイドを勝手に改造して、出発前の検査で発覚しない訳がありません」
「俺もすぐにバレると思ったが、バレてないから今こうしてるのさ。これが俺の感情的な言動を司ってる」
「仕組みはどうなっているのですか?」
 俺は肩を竦めて、定着装置を元の位置に戻した。
「詳しくは知らない。ただ、俺はバートにこれを組み込むオペを受けただけだ。だが…」
 俺は再度振り返った。死んでいる研究者の向こうに並ぶコンピューター群を眺める。
「多分あの中に答えはあるだろう」

「人間が造った『書物』か…」
 真っ白な人影が、窓から空っぽの街並みを見下ろせる部屋で、とある部品の様な物を手に取った。地下に置いてあった精神定着装置と全く同じ物である。
 とは言え、これはまだ未完成品である。いや、当時は完成していたが、今は中身に相当するものが抜け落ち、単なる筐体と化している。
「そりゃ、『愚者』に見つかかるとまずいけど…マーカスにやらせれば良かったのに…」
 言いつつも、彼は知っている。
 マーカスが前回此処に来た時、彼にそんな余裕は無かったという事を。
 実験台に拘束されて衰え切った手足、追い詰められ焦点が合わなくなった宙を見上げる目。あんなマーカスを見るとは思わなかった。遠い昔、彼が撃たれて瀕死の状態になった時だって、もっと人間らしい姿をしていた。
「…この件は俺も共犯だ」
 フェリックスは部屋の入り口の所まで行くと、手に持った物と同じ物が積み上げられた場所に向かってそれを投げた。それが床に落ちる前に、短い呪文を唱える。
 『神』を妨げる人間に天罰を。
 『書物』と呼ばれた物が内側から爆ぜる前に、フェリックスは廊下を駆けてその場を離れた。

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