聖夜のグランサイファーにて

  • PG12
  • 4927字

 なんか温かいものが布団の中に入ってきた。
 ……いや、夢でしょ。本当にキツかったなあのお酒。
 …………夢じゃないっぽい。
 目を開けて布団の中を確認する。暗くて見えないので手探りすると、角にぶつかった。
「スツルム殿!?」
 灯りを点けると、布団の中から出てきた彼女は眠そうに目をこすっている。良くないので腕を掴んでやめさせれば、再び布団の中に潜り込んだ。
「もしかして酔ってる? も~、だから飲みすぎないでって言ったのに」
 僕は布団ごと彼女を抱え上げ、もう一つのベットに置く。こうすると僕の布団が無くなるので、使っていなかった方から冷たいのを取って自分のベッドに戻ろうとした。
「酔ってない」
「いや酔ってるよね。今すごーくタイムラグあったよ」
「酔ってない! 寝惚けてるだけだ!」
 いや、寝惚けてもないでしょ。演技が下手すぎて笑いも起きない。
「どうしたの? 言いたい事があるなら聴くよ?」
 服を掴んで放してくれないので、やむなくスツルム殿のベッドに座る。
「いや、その……」
 沈黙。何この空気。僕耐えられないんだけど。
「あっ、もしかして僕にもプレゼントあるとか?」
「悪い、それは無い」
「あっ、そう……」
 自分だって無いって解っていて訊いたのに、思いの外真面目な顔で謝罪された事が逆にちくちくと胸を刺す。僕だって準備してないから、人のことは言えないけど。
「プレゼントは、無いが……」
 スツルム殿が起き上がる。服を掴んだ手が、少しだけ震えていた。
「何でも一つ、お前の言う事、きいてやる……」

「……急に言われると悩むな」
「へ?」
 一晩自分のものになってくれ、的な即答を想像していたあたしは拍子抜けした。
「え、いや、本当に何でも良いぞ?」
「自由度が高いと余計に決められないよ~」
 何に悩んでるんだ? 何か特殊なプレイのうちどれを頼むかとか?
「じゃあ、思い付く事全部言え。その中からあたしが選ぶ」
「そうしてそうして~」
 やっと楽しそうな表情になる。
 しかしほっとしたのも束の間。今度はあたしが真顔になる番だった。
「明日一日語尾に『にゃん』を付ける」
「は?」
「明日一日サンタコスで過ごす」
「へ?」
「あっ! 明日は僕が何言っても刺さないってのはどう?」
「ちょっと待て」
 確かにドランク的には嬉しい事だろうが、何でもするって言われて要求する事がそれか? まあ、全財産よこせとかいう、あくどい願いじゃないだけマシなのかも……。
「何でも良いんだぞ、本当に」
「……スツルム殿さあ」
「なんだ」
「欲しいものがあるなら、ちゃんと欲しいって言わなきゃだめだよ」
 ぎくりとする。恐る恐るドランクの顔を見上げると、どこか寂しそうな笑みを浮かべていた。
「言っても貰えない事の方が多いけど、それでも、言わなきゃ解らないよ」
 ああ、ドランクは貰えた試しがないのか。そう悟って、プレゼントを用意しなかった事を悔やむ。
「僕になんて言ってもらいたいの?」
 あたしは覚悟を決めた。ドランクが此処まで誘導したんだ。きっと、あたしの言葉はドランクの求めているものの一つだと信じて、言おうとした。
「Ahhhhhhhhh―――!!!! アオイドスが、朝六時をお知らせします!」
 が、突如鳴り響いた爆音に二人で飛び上がる。
「な、なになになに?」
「お休みのところすみません、ドランクさん! さっきの音どこから聴こえました?」
 部屋の扉がノックされ、ドランクが開く。息を切らしたグランが居た。
「どこからって……」
「この部屋の中だな」
「此処だったのか~」
 グランがへなへなと座り込む。
「事情、説明して?」
「あ、はい。アオイドスから貰った時計なんですけど、前に乱気流に呑まれた時にどっかに転がって行っちゃって。メンテしてなかったらどんどんエネルギーもなくなっていって遅れちゃってるみたいで、毎日変な時間に鳴るんですけど、なにせ一回鳴ったら止まるようになってて見つけられなくて……」
「なるほど……?」
「本当にすみません! すぐに見つけますので、ちょっと探させてください」
「も、勿論良いけど……」
 ドランクとあたしは顔を見合わせる。危なかった。あと五分遅れていたらどういう状況になっていた事か。
「……まだ宴会してるか?」
「え? はい。と言っても、アオイドスが一人でお酒を消費しているだけですけど」
「丁度良い」
 一発殴りたい。
「あ、待って待ってスツルム殿~」
 ドランクも上着を羽織り、追いかけてくる。
「スツルム殿、殴っちゃだめだよ! 相手はファータ・グランデ空域一の歌手様なんだからね!」
「関係あるか」
「いやね、アオイドスは関係無いからこそ殴っちゃだめなんだってば!」
 それはそうだ。少し落ち着いたので、足を止める。ドランクはそれで満足した様な笑顔を向けてきた。
 まあ良いか。別に、今日じゃなくても。
「あ、決まったよスツルム殿」
 二人で部屋に向かって踵を返した時、ドランクが言った。
「何が?」
「忘れるの早くない? 一つ言うこと聞いてくれるんでしょ?」
 そうだった。カッとなるとすぐ他の事が頭から飛んで行ってしまう。
「……何だ?」
「僕と付き合って」
「……解ってたんじゃないか」
「そうでもないよ。僕が自分の欲しいものを言っただけ。でも良かった」
 耳まで赤くなるのが自分でもわかる。
「ほら、寒いし部屋戻ろう? グラン君もそろそろ時計見つけたでしょ」
 こくり、と頷く。やっぱりアオイドスの酒をもう何杯か貰った方が良いのではないか、と思いながらも、あたしはドランクの背中を追った。


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