第10章:記憶

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  • 3421字

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初登場ドランクが理想の最強ミステリアスお兄さんムーブしてたり。
霧の島の話までは入っています。


 思い出さないで。

 洗濯物を全て洗い、干し終わるまでに半日かかった。とは言え、昼餉までは少し時間があるので安定は縁側で寝そべって庭を眺める。粟田口の兄弟達が畑に苗を植えていた。
(あー駄目だ)
 何処を見ても主との想い出しか無い。
『安定』
 ついこの前までも。
(花を摘んで持ってきてくれたっけ…)
 花なんて、何の役にも立たない。腹を満たしてくれる訳でもなければ、斬る事で剣術の腕が上がる訳でもない。なのに、それを受け取った時、安定はとても幸せな気持ちになった。
 笑いながら此方に小走りで駆け寄る主の姿を、いつまでも見られたら、と思った。
 安定を現実に引き戻すかの様に、隣の部屋の堀川と兼定の話し声が漏れてきた。下らない話でもしているのか、静かになったかと思ったら笑い声が大きくなる。
(平和だな…)
 自分達は戦う為に喚び起こされたのに、本丸の中は信じられない程平和だ。
 安定達の心の中を除いては。
「やあ、昼寝にはまだ早いんじゃないかな?」
 突然頭上から声がした。うとうとしていた安定が見上げると、ジャージ姿の青江が髪を頭の両脇の高い位置で縛って安定を見下ろしていた。
(えっと、何て髪型だっけ、主が言ってた…)
「何だい? 君も僕のツインテールに見とれてしまったのかな?」
「それだ。じゃない。何の用?」
「冷たいねえ。風呂掃除が終わって暇だからお喋りでも楽しもうと思ったのに。もっと笑った方が良いよ、にっかりとね」
 安定はやれやれと起き上がって縁側にあぐらをかく。青江も柱に背中を預けて腰を下ろした。
「少し心配なんだ」
「何が?」
 青江は畑で泥だらけになりながら笑っている藤四郎兄弟を見る。
「この平穏が突然終わってしまいそうでね」
「そういうのは、心配じゃなくて不安とか杞憂って言うんじゃないの?」
 言ってみたものの安定にも気持ちは解らないでもない。うちの戦績はあまり良くない。主の審神者になった動機だって利己的なものだし、それがバレたら本当に審神者をクビになるかもしれない。
「昨夜…鯰尾が誰かに襲われていたみたいなんだが」
「!?」
 安定はうっかり顔に出してしまう。そう言えば、青江はあの兄弟の隣の部屋だった。堀川と同室の筈だが、堀川は「兼さんのお世話しなくちゃ」と言って和泉守の所に入り浸っているので、実質的に青江の一人部屋である。
「誰だろうねえ、寄ってきた可愛い子ちゃんを逆に襲おうとするなんて」
 青江は単にカマをかけて回っていただけだったが、安定の表情に犯人を見つける。
「…その件については和解済みだよ」
「なら、良かった。出陣前にいざこざがあったら、いくら鯰尾でも冷静じゃいられないかもしれないからねえ」
 青江は立ち上がる。
「大坂…あの兄弟が無事に還って来れたら良いが…」


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