第10章:迫り来る魔の手

  • PG12
  • 2515字

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初登場ドランクが理想の最強ミステリアスお兄さんムーブしてたり。
霧の島の話までは入っています。


「花色さんがくれた接続マニュアルで設定できた?」
 翌日、例の屋上へと続く階段で三人は昼食を摂っていた。
「もちろん!」
「ああ。俺が知ってる事もちょっとだけテキストにまとめといた」
 菓子パンを取り出して袋を開けようとした勇に、嬢は持っていた手提げから弁当を差し出す。
「一個多く作ったんだけど食べる?」
「おおっ!?」
「…おう、ありがとう」
 横でデカいリアクションをしている隼に対して、勇は静かにそれを受け取った。隼は羨ましそうにそれを見つつも、自分には自分の母親の弁当があるので、我儘を言わずにそれを食べる。
 三人とも手早く食事を済ませ、早速隼のコンピューターで事務所のサーバーに接続する。
「花色さんがフォルダ分けしてくれたみたいだね。あ、これがK大に勤めてた頃のデータ。何処の発掘場所にいつ行ってたかとか、色々」
 既にフォルダ内にあったファイルの説明を一通り終え、嬢は切り出す。
「瀬良君の事故について聴いて良い?」
「ああ。小学校上がるか上がらないかだったと思うんだけど、当時住んでたマンションの階段を転がり落ちたらしくて」
 勇は長く伸ばした前髪やこめかみを手で上げた。目立たないが、数か所、縫合した傷跡がある。
「頭を打ったらしくて、その所為で記憶が飛び飛び。親父の顔も写真でしか知らない」
「…それ、病院の診断書とかある? 少なくともレントゲンは撮ってる筈だよね?」
「そう思って昨日探したんだが」
 勇も、嬢や妃が自分の事故について怪しんでいる事は気が付いている。実際、事故が起こった当時に父親が何処に居たかもわからない。
「母親が処分したのか実家に持って帰っちまったのか…とりあえずまだ見つかってない」
「ていうか、お袋さんなら事故の事覚えてるんじゃねえの?」
 勇の母親に、文隆の事を訊くのはタブーだというのは誰にでも解るので、敢えて言わなかった。しかし、勇の事故の事は、勇だって尋ねられるのではないか?
「それがお袋も知らねーんだよな…」
「え?」「はぁ?」
 勇は二人の反応が予想した通りで、うんざりした様にほこりっぽい床に寝転がる。
「事故はお袋が買い物行ってる間にあったんだよ。俺は留守番してたらしいんだが、玄関開けて外に出て、足踏み外して…っていうのは全部周りの大人の推測。事故が起きた階段やマンションの廊下には子供の背丈なら十分隠れるくらいの壁があって、普通は皆エレベーター使うから目撃者も居ない。俺はたまたま通りかかった下の階の人に発見されて、事故後初めてお袋と会ったのは病院のベッドの上ってわけ」
「…なるほど…」
 そこまで話した所で予鈴が鳴った。嬢と隼は勇の背中に着いた埃を払い落としてやる。
 教室に帰る途中、嬢はふと思い出す。
「そういえば、深森さんには会えたの?」
「ん? あ、忘れてた」
 嬢と隼は前後の席に座って次の授業の準備をしながら続ける。
「別に用事がある訳じゃない。それにしても名簿に無いってどういう事だ…?」
「ミスプリかな」
 放課後、食堂に隼を呼び出して再び集まる。厨房で働いているおばさん達を除けば、食堂には誰も居なかった。
「俺も花色さんが忙しくならない内は仕事無いっぽいから、手伝うよ。一応幼馴染だから、勇の覚えてない事も知ってるかもだし」
 言いながら隼は例のプロジェクターを使って勇のタイムラインを作っていく。
「それなら霧子も色々知ってるかもしれねえな」
「ああ、そうだね」
 隼は片手間に返事をする。嬢は少しだけむくれっ面をしたが、勇は気付いていない。
「えーっとぉ…六歳になる直前に引っ越してって…こっち戻ってきたのは小三?」
「合ってる。お袋は中二の時に実家に帰った」
「親父さんが居なくなったのは、幼稚園の終わり頃か…」
 ニュースと妃達からの情報を元に書き加える。
「嬢ちゃんのお父さんが居なくなったのは?」
「三年前。私が小学六年生の時」
 詳しい日時と共にそれも追加。
「…六年も経って突然名前が出てくるなんて…」
 その時、食堂の外から聞こえてきた悲鳴で三人は飛び上がった。
「なっ何!?」「わからない!」「見に行こう」
 慌てて隼がプロジェクターを片付けて鞄に放り込む。食堂の前の渡り廊下で、足から血を流して泣いている少女が居た。
「転んだだけ?」
 膝の傷はただの擦り傷に見える。しかし、今の悲鳴は?
「変質者だって」「逃げてる時に転んだらしい」「無事で良かった」「犯人は?」
 助けに来た他の生徒や教諭達に質問されても、女子生徒は「とにかく変な人なの!」と怯えながら言うだけだった。
 それはどうやら、その変質者の特徴をどう言葉で表せば良いのか解らない風であり、また自分が見たものを信じられないような風でもあった。
「ま、真田さんも気を付けてね…」
 野次馬の中に居るのも飽きたので勇は踵を返す。その時、彼女の姿が人ごみの向こう側にあった。
「あっ霧子!」
「瀬良君!?」
 見失うまいとして生徒達を押し退けて行く。しかし結局、勇が霧子が立っていた場所に着いた頃には、彼女の姿は無くなっていた。
「…明日探そう?」
 嬢は追いついて提案する。
「四組以外の一年って事は確かなんだから、休み時間に虱潰しに訊いて回れば見つかるよ!」

「失敗したな」
 霧子は暗がりでモニターを見ながら何やら操作している男に言われたが、気にした様子も無く彼に近付いた。
「大丈夫、私がやったとはバレてないみたいだから」
「それなら良いが、今度はもっと目標に近付いてから発動させろ。今回みたいに目撃されたら始末対象が増えて厄介だ」
 男は暗い部屋の中だというのに色の濃いサングラスをかけていた。旧式のコンピューターをパチパチしているのは、どうやらメールを打っているらしい。
「永川さんこそ収穫は?」
「……」
 男の方は気に障ったのか、イライラした様子でサングラスを外して服の裾でレンズを拭いた。その時、彼の水色の目がモニターの光の下に露わになる。顔立ちも、明らかに日本人ではなかった。
「…用が無いならもう行け」
 霧子は言われた通りに部屋を出ようとした。扉を開けた彼女の背に、永川が念を押す。
「真田姉妹には気を付けろ」
「……はい」
 普通に電灯が付いている空間へと出て、霧子は扉を閉めた。

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