第1章:雷雲

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  • 12440字

 二人は傭兵ギルドの本部へと赴いた。ギルドを取りまとめている人物が、スツルムの事を駆け出しの頃から気にかけてくれていたらしい。
「その、ドナさんってどんな人?」
 土産物のクッキーの箱を手に、ドランクはその建物を見上げる。裏山で土砂崩れでも起こったらぺしゃんこになりそうだ。そういう場所だから土地代も安く、こんなに立派な物が建てられたのだろうが。
「会えば解る」
 言われて中へ。スツルムがどんどん奥に進んで行くのを、ドランクは追いかける。
「おい、青い髪のエルーンじゃないか?」
「本当だ。一匹狼のイメージあるけど、いよいよギルドに入るのかな?」
 廊下で談笑していた傭兵達とすれ違うと、そんな言葉が耳に入る。関係を大っぴらに話すつもりは無かったので、無視して小さな背を追った。
「ようこそ、傭兵ギルドへ」
 ギルド長の部屋で二人を出迎えたのは、妙齢を過ぎたばかりのドラフの女性だった。右頬に大きな傷痕がある。それを隠そうとしない姿は、戦士の中の戦士といった風情だった。
「ドナ」
 スツルムの言葉に、ドランクは彼女が今日の訪問先である事を知る。
「今日の用事はちゃんと手紙に書いただろ。ギルドとは関係ない話だ」
「解ってるよ。ちょっと言ってみたかっただけさ。さあ、座って座って」
「どうも。あ、これお土産です」
「土産? わざわざありがとうねえ。ヴォルケー! お皿出して、あとお茶も」
 隣の部屋から秘書らしきエルーンが現れ、クッキーの箱を持って給湯室へ消える。
「申し遅れたね。私がドナ。スツルムの保護者なんて言ったら言いすぎだけど、一緒に組んでた事もある」
「ドランクです。今は僕がスツルム殿と一緒に」
「そう名乗る事にしたのかい。噂には聞いてるよ。随分活躍しているそうじゃないか」
「いや、そんな」
 第一印象からは意外な感じもしたが、流石に団体のトップを務めるだけの事はある。ニコニコとした笑顔ですらすらと述べられる社交辞令に、ドランクは苦笑した。
「ドランクさん、コーヒー飲めます?」
「え、あ、はい」
 ヴォルケが給湯室から顔を出して尋ね、また消えた。急に名前を呼ばれたドランクは驚く。耳が良いな。湯を沸かしている中で別室の声など、エルーンでもそれほどはっきりと聞き取れるわけではない。
「私はお茶ー」
 念を押すドナに、給湯室から返事をしたヴォルケの言葉は、やはりドランクにも聴き取れなかった。
 それから暫くは世間話をして、スツルムがそれに飽きてきた頃、ヴォルケが飲み物を運んできた。スツルムが立ち上がり、既に取り分けられたクッキーも別の盆に載せて持って来る。そういう気が利く所は、彼女の良い所だとドランクは思う。
「さて、じゃあ本題を聴こうか」
 ヴォルケもテーブル脇の一人がけのソファに座った所で、ドナが切り出す。ドランクは背筋を正した。
 何て言おう。変に気取らない方が印象が良いか。
「スツルム殿と、結婚しようと思います。……祝福していただけますか?」
 ヴォルケが手に持っていたコーヒーを、眉一つ動かさずに啜った。あ、やばい、もしかしてヴォルケの方が舅的立場だったか? とドランクが視線を反らした時、ドナが笑った。
「祝える訳ないだろ?」
 ドランクは、そしてスツルムもドナを見る。ドナは先程と同じ笑顔のまま、そして全く変わらない声色のまま、そんな冷たい言葉を吐いていた。


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