第1章:雷雲

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  • 12440字

「ドナ!」
 先に言葉を発したのはスツルムだった。立ち上がらんばかりの勢いで、ドナの事を睨み付ける。
「冗談も大概にしろ!」
「それはこっちの台詞だよ。お前まだ未成年だろ? 口説かれてホイホイついて行かない」
「別に口説かれてなんか!」
「じゃあ一体何だってのさ。隣にいる男をよく見な。お前、青い髪のエルーンに付き纏われて迷惑だって、つい数ヶ月前まではよく此処に逃げ込んでたじゃないか」
 スツルムは返す言葉を失う。いただきます、とヴォルケがクッキーを摘まむ横で、ドランクは言うべき言葉を探していた。
 ドナの言う事は全く間違っていない。子供は正しい判断が出来るだけの知識や経験が無いから、社会的に守るべき存在なのだ。バルツに子供との婚姻を禁じる法律があるかどうかとか、そういうのが無い国に行けば良いとか、そういう問題ではない。
 ドランクはスツルムの事を愛しているし、スツルムも自分の事を愛しているのだと信じている。だけどそれを周囲の人に認めてもらわなくては、祝福も得られないばかりか、下手をすればスツルムと大切な人との関係を壊してしまう。丁度今そうなりつつある様に。
「いつも言ってるけどねえ、お前は自分がまだ子供だって自覚が足りないんだよ!」
「ドナさん」
 これ以上熱くさせるのはまずい。俯いて半泣きになっているスツルムを見て、ドランクは会話に割り込む。
「結婚の話を持ち掛けたのは僕からだって事は認めます。でも無理強いなんかしてないし、スツルム殿もちゃんと考えて――」
「子供がいくら考えた所で、出る答えは同じさ」
 その言葉に、ドランクの中で何かが切れた。
「さっきからスツルム殿の事、子供子供って……」
 子供は守るべき存在、それは理解している。だが、年齢を重ねただけで大人になれる訳ではない。
「そう言って抑え込めば何でも言う事を聞くと思ってるんですか? それとも、そういう方法でしか人を動かせないんですか?」
 ドナも、そしてドランク自身も、スツルムに比べたら精神的に子供だ。
 ドランクは言ってから、己の幼少期を思い出してしまい、口を噤む。これ以上は八つ当たりだ。
「……言ってくれるじゃないか」
 漸く、ドナの声色もその言葉の内容に沿ったものになる。
「表に出な」
「何故です?」
「決まってるだろう? そんなに言うなら、私を力尽くで倒して連れて行きな」
「ハッ」
 ドランクの嘲笑に、スツルムは心配そうな視線を彼に送る。余裕ぶって相手を牽制するのは、彼の悪い癖だ。
「そりゃあ、ドナさんに不利ですよ。僕は魔法が使えるんですから」
「私だって魔力くらい、少しはあるよ」
「ほう?」
「ま、心配してくれるってんなら、ルールを決めようか」
「双方剣を一振り装備、飛び道具・魔法道具の類は禁止。但し詠唱無しで使える魔法については自由に使って良し」
 すらすらと言葉を紡ぎ出したのはヴォルケだ。ドナが誰かに決闘を申し込む時は、いつも決まったルールを使う。
「場所は自由、終了はどちらかが降参するまで」
「自由?」
「別に今襲い掛かって来てくれても良いんだよ?」
 ニヤニヤと挑発するドナに一瞬乗せられかけたが、ドランクはある事に気付く。
「僕が剣を準備するまでは待っていてくださいよ」
「それはそうだねえ。それじゃ、一時間後に此処に戻って来て」


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