第5章:駆け引き

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  • 5534字


「まずは手分けして探そう。二時間に一度はグランサイファーに戻って来て、状況を報告するように」
 組み分けは以下の通りとなった。僕とスツルム殿、ユーステス君とベアトリクス、ゼタとバザラガ、アイザックとカシウス。イルザさんは、女性を狙った犯罪の可能性も考え、囮として単独行動をする事になった。
「何かあったら強く握ってください。もう片方と連動して、僕に通知が来ますので」
「ありがとう」
 宝珠の片方を渡すと、イルザは服の内側に仕舞い込む。
「それじゃあ僕達はもう行くよ」
「シン配だからな」
 まずアイザックの班が町へと駆け出した。ベアトリクスがその背中を視線だけで追い、溜息を吐く。
「あいつらの方が心配だな~」
「カシウスじゃ、暴走したアイザックの事止められないもんね。多分……」
「寧ろそれに乗じて、一緒に暴れ回るかもしれんな」
 続いてベアトリクスの組と、ゼタの組も歩き出す。ユーステスは黙って最後尾を歩いていた。
「さて、私達も行くか。と言いたい所だが……」
 イルザが鋭い視線を寄越す。
「君の野暮用とやら、何だったのか聴かせてもらえるか?」
「……道中話しますよ」
 放っていてはくれないか。僕は話せる部分だけ、そして団長さん達の捜索に必要な情報だけを、かいつまんで話し始めた。

『秩序の騎空団・第四騎空艇団のヴォルニーと申します。モニカ船団長補佐の代理でやって参りました』
 塀の上に座っていた若い騎空士はそう名乗った。
『敬語を使ってくれるって事は、僕に何らかの嫌疑がかかっている訳じゃあないのかな?』
『いいえ。嫌疑はあります』
 思わず宝珠に手を伸ばす。騎空士は手を挙げて、少なくとも今は危害を加えるつもりが無い事を示した。
『まずは話を聴いてください』
 先制攻撃すれば、現行犯で捕まえる口実を与えてしまう。渋々僕が手を下ろすと、彼はモニカの提案を――正確に言えば取引の内容を話し始めた。
『これからの話は全て、貴方が「青い髪のエルーン」だという前提の上に成り立ちますが――』

「モニカさんは、えらく僕の戦闘能力を買ってくれたみたいでして」
 特に、先のトーナメントで極力相手を傷付けずに戦う手法が気に入ったらしい。
「僕に便宜を図る代わりに、力を貸してくれないかと」
 便宜とはつまり、逮捕の延期と刑期の短縮だった。
 僕が秩序の騎空団の依頼でただ働きをしている間は、彼等は僕の身の安全を保証する。しかも功績に応じて、現地の政府司法警察に取り計らって減刑を交渉してくれる――本業に支障が出る可能性や、任務中に事故や事件に巻き込まれる危険性を加味しても、美味しい話だった。

『僕の身の安全は本当に保証されるんですよね?』
 しかし、その条件を飲むという事は、自供する事と同義だった。
 若い騎空士は口の端を釣り上げる。
『秩序の騎空団も万能ではないですから。我々の力が及ばない国家や地域で逮捕される事を防ぎきる事は出来ませんよ。それに、そんな事を言えた立場ですか?』
『ぐっ……』
 僕の罪はこの一度きりの人生、たった一つの命では到底償えない程に積み重なってしまっている。
 この国でも以前、マフィア同士の衝突に手を貸して一人殺した。今回の仕事では、その分の懲役をチャラにしてもらえるらしい。
 両の手でとうに数え切れなくなった内の、たった一人分。気が遠くなる話だが、それだけ己の罪は重いという事だ。
『いずれにせよ、状況証拠と自供だけでは検挙できませんからね。仕事が終わってからで構いませんから、この国で起こした事件の、犯人[あなた]しか知り得ない情報を教えてください』

「今日の依頼は、近くの島で連続強盗殺人事件を起こした人物がこの島に逃げ込んだと思われるので、見つけて捕まえてくれとの事だったんです。それで捕まえたは良いんですが、もしかしたら――」
「共犯が居て、そいつがお前の連れを狙ったんじゃないか、か」
「可能性は低いな」
 僕達の推測はイルザに一蹴される。
「共犯が居たとして、君が犯人と接触したのは二人と別れてだいぶ経ってからだろう? 仮に共犯に、君が犯人を逮捕するところを見られていたとしても、君の連れの事は知らないんじゃないか?」
「言われてみれば……」
「確かにな。それに、主犯の釈放を目的とするなら、良い加減秩序の騎空団なりあたし達なりに、交渉があってもおかしくない」
「とすると、単なる人攫い……?」
「厄介だな。この島は山林面積が広いし、町の外に連れ出されると夜の間の捜索はほぼ不可能だ」
 町の中心部に着く。イルザさんが足を止め、結っていた髪を解いた。
「それにしても」
 服を緩め目を細めた彼女は、男という蝶を寄せ付ける花の様だった。これは、囮作戦が効果ありそうだ。別の厄介事も引き込みそうな気もするが。
「秩序の騎空団は何故ドランクだけに依頼したんだ? 戦闘能力で言えばスツルムも人並外れているし、君達はコンビだろう」
 その言葉にどう返せば良いのか困り、苦笑する。スツルム殿があっけらかんと答えた。
「あたしはあいつらの世話になる様な真似はしていない」
「スツルム殿~、それじゃ僕が悪い事でもしたみたいじゃなーい」
 白々しい嘘を吐き、そのまま僕達は、振り返らずに夜の闇へと紛れた。


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