第8章:美しい女性[ひと]

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  • 1977字

 森の中を少し歩くと、思っていたよりも早くコランダム王宮に辿り着いた。
「これはこれは」
 門を開けてくれたのは、細い足に高いヒールを履かせた、まだ若い優美な女性だった。
「カルセドニーの方にまたこんなに早く会う事になるなんて。どうぞ、お入りになって」
 どうやらオニキスとは知り合いらしい。誰なのか聞こうとしたら、その前に前を歩く女性が切り出した。あんな細い脚で、よくふらつかずに歩けるなあ。
「ところで、そちらのお嬢さん達は?」
「ローズ・クォーツ王女とその護衛のルチルです、サファイア様」
 サージェナイトが恭しく答えた。
「やはり宝剣がらみの用ですのね」
 身分が高い人らしいが、宮殿に着くとその扉を自分で開き、ボク達を中に通す。よくこんな細い手で以下略。
 客間らしき部屋に案内され、椅子を勧められる。
「ご挨拶が遅れましたわね。私、コランダム領主のサファイアと申しますわ、姫様」
 言ってひざまずき、ローズの手を取って口付ける。とは言っても、今は確かに一国民に過ぎないが、領主という事は元コランダム国王だ。ローズはこの様な身分の高い人に丁寧な挨拶をされるのは初めての事で、なんだか気まずくもじもじしているのが解る。
 サファイアは同様にオニキスにも挨拶した。オニキスが自分と同等の扱いをされた事を訝しんだローズが口を開く前に、オニキスは慌てて立ち上がる。
「光栄でございます我が領主様」
 やや強引にサファイアを領主の椅子に座らせ、頬に口付けるついでに囁くのがボクには解った。
「素性隠してるんだ」
 幸いローズはタイミング良く召使が持って来た茶菓子に気を取られて気付かなかった様だ。
 サファイアはふふっと笑うとローズに好きなだけ食べる様に勧めた。
「コランダムは人が少なくて…領土は殆ど『迷いの森』ですので、国民は皆この宮殿に住んでいるんですの。住めるだけの人数しかおりませんわ」
 サファイアは青い瞳が印象的な女性だった。
「『迷いの森』の所為でお客様も滅多にいらっしゃらないので、給仕達が張り切っていますわよ」
「『迷いの森』と言うんですの? この一帯は」
 サファイアは自分のカップを手に取ったが、答える為に手を止めると微笑んだ。
「『迷いの森』は招かれざる客を決して通しはしませんわ…そうでない方には進むべき道を指し示しますけれど」
 という良く解らない答えだったが、ここでサージェナイトの説明が入る。
「キングダムガーデンに統合される前は十六個の国があってだいたい一年ごとに神器を持ち回ってたんです。それで十七年前と、つい先日までカルセドニーが宝剣の担当だったんですが、次のコランダムに持って来る途中で盗まれちゃいまして。と言うか遣いの者ごと行方不明に」
 コランダム領主の前なので一応敬語で話してるけどフランクな態度は改める気は無いらしい。
「全く、『迷いの森』を突破した奇術を知りたいものですね」
 オニキスが言った。結局「迷いの森」が何なのか良く解らないけど、とりあえず悪者には不都合な仕組みになっているらしい。
「あの後も何度か探しましたけど、カルセドニーの遣い達は見付けられませんでしたわ」
 サファイアの言葉にオニキスは頷く。
「恐らく全員連れ去られたのでしょう」
 話を聴きながら菓子を摘んでいたローズが言う。
「サージェナイトさん良くご存知ですのね。そんな事一般市民に公表したら大変な事でしょう?」
 ローズもそろそろ怪しんできている。サージェナイトはまるで答え方を準備していたかの様に返した。
「まあ、僕は情報屋ですので」
「今晩泊めていただけませんか」
 話が一区切り着いたのでオニキスが本題を切り出した。
「構いません事よ。何処へ向かってらっしゃるの?」
「ベリルへ。宝剣に関して動きが」
「よろしければ私にもそのお話聞かせていただけません? 盗まれたのは私の領土内…黙って何もしない訳にはいきませんわ」
「いえ、駄目です領主様」
 オニキスが強い口調で断った。
「勿論情報のお礼は致しますわよ」
「駄目です!」
 半分怒鳴っているオニキスの黒い瞳を、サファイアの青い眼差しが見つめ返す。
「…貴女を巻き込みたくありません、サファイア様、どうか…」
 オニキスが彼女の元にひざまずいて懇願した事が余りに彼のイメージとは掛け離れていて、ボクは呆気に取られた。ローズは何故かむくれっ面をしていた。
「…巻き込みたくなくても、これはシャイニーガーデン全体の問題ですわ。始めから巻き込むも何もありません事よ」
 そう言われてオニキスは下がる他無かった。サファイアは今度はサージェナイトを見る。
「対価は何がよろしくて、情報屋さん?」
「パライバに会うので土産になりそうな物を」
「指輪でもこしらえましょうか。今年も青玉[サファイア]は質の良い物が採れましてよ」
 そうしてサージェナイトとボクは再びあの説明を繰り返すのだった。

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