第29章:兄妹

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  • 1854字

「一体いつになったら仕掛けてくるのかしらね…」
 窓を閉めきっている屋根裏部屋では時計でしか時の流れが感じられないが、その針が夜の始めを指した頃、パライバが夕食を運んで上がってきた。
「あら? ルチルは?」
 四人分持って来たのに三人しかその場に居ない事に気付き、パライバが赤く充血している目を丸くする。
「オニキスが連れて行ったわ」
 ローズ姫が答える。
「それより、いつまでも此処で待っているだけですの? 私達」
「そうねえ…私が『砂漠の薔薇』なら、忍び込むなら夜にするわね。今晩何も無ければ明日の動きはまた考えるけど」
 しっかりした口調で話しながら配膳するパライバを見ながら、私は受け取ったスプーンでスープを飲み始めた。
 私の身代わりになったのが、彼女で良かったと思う。母親がどうなったのか判らないが、何もかも終わって落ち着いたら、きっと、良い関係が築けるだろう。

「…ご飯よ」
 ボクはパライバの声に飛び起きた。ついうたた寝してしまっていた。
「やっと起きたね」
 見ると向かいにはオニキスではなくサージェが座っていた。オニキスと見張りを交替したらしい。どぎまぎしながら夕食を受け取り、三人で食べ始める。
「現状報告をどうぞ」
 パンを千切りながらパライバが言った。
「僕が見張り台に立ってた時点ではどの方向も異常無し。街の偵察隊からも連絡無し」
「住民への注意喚起は?」
「無用な混乱を起こすよりマシだろう。してないよ」
「それもそうね…」
 言いつつもパライバの表情は険しい。
「こっちは相手の素性すら知らないわ…出方を待つだけしかできないの…?」
「「そう言えば」」
 サージェとボクが同時に声を上げた。ボクは少し赤くなって、サージェに先に喋らせる。
「サファイア様が『ターコイズの狙いは多分私』って言っていたんだ」
「ふうん?」
 接点を見出だせないのはパライバも同じらしく、頭の上にクエスチョンマークが見えそうなくらいだ。そこでボクが言う。
「その件、さっき魔鏡で見たんだけど…」
 鏡で見た経緯を説明すると、二人は首を傾げた。
「とりあえず私はターコイズって男が二十年近く歳を取ってない事が気掛かりよ。ありえないじゃない。化け物なの?」
「『迷いの森』だってなんだか良く解らない存在だし…ターコイズの目的がサファイア様や、ひょっとして『森』なら、シャイニーの神器は目的達成の為の手段・道具ってわけか…」
 三人でスプーンを握ったまま考えていると、オニキスが転がる様な勢いで指令室に駆け込んで来た。
「何ようるさ…」
「来てくれ! 『森』の光り方がいつもと違う!」
 サージェが椅子をひっくり返さん勢いで立ち上がった。
「まさか…直接あっちを狙ったのか…?」

 私は『迷いの森』の中からベリル城の様子を窺っていた。
 すぐ後ろにはターコイズが宝剣と王冠を携えて立っている。アメジスト王女も連れて来られていた。
「一先ずシトリンとモルガンの事は気にするな」
 ターコイズが私に囁いた。
「自分も命からがら逃げてきた振りをして潜入してくれれば良い。二度ある事は三度ある。ベリルの人間やお前の兄は可哀相にと匿ってくれるだろう」
 さあ、と背中を押され、覚悟を決めて「森」から飛び出した、その直後の事だった。
 背後から強烈な光に照らされ、私は振り返った。見れば「森」が何とも形容しがたい色に輝いている。
「ターコイズ!?」
 慌てて駆け戻ったが、そこに二人の姿は無かった。急に心細くなり、私は叫び続ける。
「ターコイズ! ターコイズ!!」
 その時茂みが動く音がして、私はホッとして振り返った。
「ターコイ…!」
 そこには私よりも背が低い少年と、どことなく自分と似た青年が、剣を構えて立っていた。

 俺はサージェを呼びに行ったのに、着いて来たのはルチルだった。
「だああ! お前は城に隠れてろっつの!」
「サージェを連れて行って、二人とも連絡付かなくなったらどうするのさ! この戦いの指揮取れるの、二人くらいしか居ないのに!」
 言ってパライバに鏡を預け、鎧を締め直す彼女を最早止められなかった。サージェは城で緊急警備に当たっている。
 二人で「迷いの森」に足を踏み入れると、間も無く女の声が聴こえてきた。
「ターコイズ!」
 その声がそう叫んでいる事に気付き、俺達はそちらへと駆け出した。茂みを抜けると、背の高くて髪が短い女が此方を振り返る。
「ターコイ…!」
 その顔が瞬時に凍り付く。
 俺だって即座に感づいた。
 成長しているとは言え、両親に良く似たその顔を、見間違えたりはしない。
「ブルーレース…」

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