第6章:兄弟

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  • 1238字

 アレックスは今日も自分の机が横倒しになっているのを見て、溜息を吐いた。
 小学校に入ってから四年以上、ずーっと、彼は虐められ通しだ。
 原因ははっきりしている。
「『白い悪魔』の弟が来たぞ!」
 アレックスの後から教室に入って来た生徒が叫んだ。アレックスが振り返ってキッと睨むと、その生徒は他の子供達とキャアキャア言いながら教室の奥に入った。
「悪魔ー」
「悪魔の弟も悪魔だ!」
「真っ白、怖ーい」
「黙れ!」
 アレックスは机を起こそうとしていた手を止め、からかう生徒達に向かうと掴み合いの喧嘩を始めた。暫くして、誰かが教室に入って来る音がする。
「お前等っ、またテイラーを虐めて…。テイラー、止めなさい」
 朝の会をしに来た教員が仲裁に入り、漸くアレックスは泣いている生徒を叩き続けるのを止めた。気付けば彼は、教師の気配を感じて早々に手を引いた他の生徒達が遠巻きに見詰める中、虐めの主犯格の生徒を押さえ付けて一方的に暴力を振るっていた。
 アレックスは背が高く、運動神経も良い。一対一では他の子供は彼に勝てなかった。
「テイラー、やっぱり一度ちゃんと話し合おう」
 放課後、教師に呼び出されてそう言われたが、アレックスはいつもと同じく首を横に振った。誰と話し合うつもりか知らないが、両親や兄に虐められている事は知られたくないし、反撃の為とはいえ自分も暴力を振るっている事は尚更だ。いじめっ子や、彼等を統制できない教師とも、話し合うつもりなんか無い。
 そうして帰路に就こうと校門を出た所で、アレックスは後ろから誰かに突き飛ばされ、危うく通り掛かった馬車に轢かれそうになった。
「大丈夫かい?」
 馬を止めて降りてきた御者の助けを借りて起き上がり、豪勢な馬車だなあと思っていた所、なんと窓から顔を出したのはこの国の国王だった。どうやら身を窶してお忍び外出らしい。アレックスが答えると、中から少年の声が聞こえた。
「父上、何事ですか?」
(! 王子も乗ってる?)
 ウィリアムズ国の王子、ティモシーは、確かフェリックスと同い年だが、毎年誕生日を祝う式典を欠席する程病弱らしい。誰もその姿を見た事が無いが、今日は調子が良いのだろうか。
「ああ、小学生を轢きかけてな…それにしても酷い奴だ。君を突き飛ばした子は走って逃げて行ってしまった」
「そうですか」
 両親の仕事絡みの縁で、ティモシー王子とフェリックスはもう一年程文通している。弟だと名乗ろうかと思ったが、文通の件は家族の中だけの秘密だったと思い出し、外で言うのを躊躇った。
「それじゃ、気を付けて」
 国王の言葉に御者が馬を動かす。馬車の窓に付けられた薄手のカーテンの向こうから、白くて小さな手が押し当てられた。続いて、王が閉めようとした窓に、白い巻き毛の少年の顔がチラリと見えたが、すぐに国王が二重になっていたカーテンの厚手の方を閉めて見えなくなった。
 しかしアレックスは、王子の紅い双眸をしっかりと目撃していた。
(アル…ビノ…)
 王子は、兄と同じアルビノだったのだ。

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